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二人で下着だけでベッドの上で寝ころびながら、わたしはミカにインタビューする。部屋の明かりは電球と同じ色を発する蛍光灯。ハンディカムは天井を映し出している。

――名前は？

「小林美佳」

――ウソつき。年齢は？

「二十三」

――そうなんだ……でもウソでしょ？　性別は？

「たぶん女」

――出身地は？

「東京」

――いちばん古い記憶は？

「えー……産湯を浸かったときのたらいの縁」

――……オマエは三島由紀夫か？

「芝生の向こうに見えるブランコ」

――それは何歳のときの記憶ですか？

「わかりません。でもたぶん三歳くらいです」

――それはどこですか？

「わかりません。近所の公園かもしれません」

――その公園は今もあるのですか？

「わかりません。その後行ったことがないので」

――家族構成は？

「父と母と私、でした」

――「でした？」

「父も母も死にましたから」

――そうでしたか。

「そうなんですよ」

わたしはハンディカムをミカの横顔がぼけるくらい近くに起き、起きあがるとミカを抱き上げてベッドの中央に移動させ、両膝を付けてミカの上にまたがった。そしてミカのブラをはずし、ハンディカムを持って左胸にフォーカスを合わせた。ピンク色のきれいな乳首。やっぱり二十三歳かもしれない。

――初恋はいつですか？

「幼稚園のときです。向かいに座っていた男の子のことが好きでした」

――どんなところが？

「叩くとすぐ泣くんですけど、その様子が可愛かったんです」

――女の子のことは好きですか？

「……愛してる」

――映画に興味はありますか？

「人並みには」

――一年間にどのくらいの映画を見ますか？

「テレビやビデオ以外だと、五、六本、ですね」

――どんな映画が好きですか？

「さあ、ひとことでは……」

――何か例をひとつ上げてください。

「『タイタニック』という映画が好きでした」

――どんなところが好きでしたか？

「人がたくさん死ぬところです」

――ほかには？

「『ベイビーズ・オブ・マコン』とか」

――どんなところが好きでしたか？

「血みどろなところです」

――血塗られたものが好きなんでしょうか？

「そうかもしれません。そういう死に方ができるなら本望です」

――そうですか。だとしたら、私の映画は少しは気に入って貰えるかもしれません。

「人がたくさん死んだり、血みどろだったりするんですか？」

――たくさんは死にませんけど、血みどろではありますね。

「ちょっと安心しています。普通の青春映画とかだったらどうしよう、とか思ってましたから」

――私があなたを撮るのですから、多少はエキセントリックな青春映画になることでしょうね。

「青春映画なのですか？」

――私にとっては、ですが。

「あなたにとっての青春映画ですか。それはどんな感じのものなのでしょうか？」

――少しずつわかっていくと思います。

わたしはハンディカムを回したままベッドに置いて、ミカに協力してもらいながらショーツを脱がせた。全裸のミカは少なくともわたしにとっては申し分ない物体だ。ミカを踏みつけないように注意しながら、両足をベッドに取られないように注意しながら、ミカを跨いでハンディカムの画面をつま先から徐々に頭の方に向けて移動していく。ミカはされるがままに。人形。

「そうですか。楽しみにしています。ところで監督さんは結婚してらっしゃいますか？」

――監督！なんという甘美な響きでしょうか(笑)。結婚はしてません。

「ああ、だから青春映画なんですね」

――？

「結婚すると青春は甘い思い出にすり替わるといいますから」

――そうなんですか？

「はい。私が今作ったんですが」

――(笑)。

「あと、これだけは言っておきたいんですけど」

――なんでしょうか？

「私と関わると、不幸になるかもしれません」

――それはどういうこと？

「経験的に、そうだからです」

――あなたのご両親のこと？

「それもありますが、それだけじゃないんです」

――話してくれますか？

「それは、できません。ごめんなさい」

――いいえ、謝ることはありません。でも、少しだけ気になるかも(笑)

「なんの根拠もないことなんです。忘れてください」

――……そのうち気が向いたら話してね。

「はい、そうします……ところで青春映画、ということですが、どういう映画なんですか？」

――アマチュアの映像作家が、ある少女に「ハムレット」のオフェーリアの幻影を見るの。映像作家は少女に「ハムレット」の舞台を見せて、それからシェークスピアの作品を読ませて、そして少女をオフェーリアに見立てた映画を作るの。少女は不条理な失恋をして、気が狂って、最後に水の中に沈んでいくの。

「すみません、少女じゃなくて(笑)。でもそれで青春映画なんですか？よくわからないけど」

――私にとっては青春映画なの、これが。協力してね、お願い。お金は出ないけど、たぶんロケにも行くと思うし。もちろん旅費その他は私が負担します。

「あ、それは嬉しいです。私、東京の外にほとんど出たことがないから、東京じゃないところにいけるといいのだけど」

――きっと、東京から遠く離れた場所になると思います。

「わーい、うれしいっ！でも、こうやってビデオカメラを向けられてインタビューって、緊張するけど、すごく気持ちいいですね」

――あなたは女優体質なのかもしれませんね。

「お芝居の経験なんてないけど、頑張ります」

――私だって、誰かを主な被写体にして映画を撮るのは初めてだから。

「あら、そうなんですか？」

――そうなんです(笑)　これまでは人間を含めた動物はできるだけ画面に入らないように気を付けていたんです。

「うまくいくんでしょうか？」

――頑張ります(笑)