ｉ）ｎｔｅｒｒｕｐｔ

隣でカオルが眠っている。わたしはうつぶせになって、ノートパソコンに文字を打ち込んでいる。ついさっきまで眩しいうるさいと文句を垂れていたのに、死んだように眠っている。死んでないのは文字を打ち込まずに考えているときと、体が暖かいことからわかる。っつーか、普通そんな簡単に理由もなく死ぬか？　死んだらそれこそネタになるからいいんだけど。よくないか。わたしの横で死なないでね、カオル。寒いので抱き寄せたいところだけど目を覚まされると鬱陶しいのでわたしの方が寄り添う。暖かい。電気毛布いらない。

夜書いた文章を朝になって読むと赤面しない？　って話を昔いろんな人としたような気がするけど、最近は不感症になったのか、それとも文章を書くに当たって朝も昼も夜もないのか、そういうことはすっかりなくなった。

カオルはわたしよりも七つも年下で、ぎりぎり二十代だ。今年で三十になると嘆いているけど何も変わらない。専業主婦だけど子供はいない。子供が嫌いなわけではないらしいけど積極的に作る気もないようだ。にしても子供を「作る」って言い方はなんかすごい。まるで粘土でもこねて作るみたいではないか。

子供は、受精した後ひとつの細胞が分裂して自己生成……とはいえないか、母胎の中にあるのだから。でもまあ自ら生成していくわけだ。それがどうして子供を「作る」ということになるのだろう？それとも性交して男が女の体内に精子を送り込み、たくさんの精子のひとつが卵と結合することを指して「作る」というのだろうか？

でも普通そこまで考えないから、粘土をこねるみたいにして「作る」というのをイメージしているのだろうか。そんなことないか。性交して受精させる、というのを「作る」という言葉に代弁させているだけのことなのだろう。

そういえばもう少し消極的な言葉に、「できた」とか「できちゃった」というのもあったな。子供が「できた」……「授かった」と同じくらい神秘的な言葉だ。まるで男が関わっていないみたいだ。男が関係ないならいっそのこと（こんな言い方したら脳の血管ぶち切れる人もいるかもしれないけど）「湧いた」とか「湧いちゃった」なんてどうだろう？

そんなしょうもないことを考えながらカオルの寝顔を見てると、変な気分になってくるのでいい加減にしておく。なぜなら隣に横たわっているのが男であるよりもカオルのような可愛い女の方がときめくからだ……これは朝読み返したら赤面するかもしれない。でもわたしにとっての「朝」というのは昼過ぎだったりするからやっぱり赤面しないかもしれない。ただいま失業中で、生活パターンが滅茶苦茶なのだ。ゴミは朝出さなきゃならないから一応目を覚まして人に見られても恥ずかしくない程度の格好をしてゴミを出すとすぐにまたベッドに潜り込み（もちろん寝間着に着替えて）、昼過ぎに起き出して、というパターンのこともあるし、ゴミを出したら目が覚めちゃって朝ご飯を食べて、洗濯しているうちに眠くなってきて、洗濯機が止まるまでなんとか目を覚ましていてそれを全部干すと同時に着替えもしないでベッドに潜り込んで気が付くと夕方、とかそんな感じだ。食べるものは食べているけど、どれが朝食で、昼食で、夕食なのかはよく分からない。寝ている時間が異常に多ので、食べる量が減る、というよりも簡単なもので済ませてしまうので（菓子パンとか）、栄養失調気味かもしれない。太るかと思ったら痩せてきた。睡眠ダイエット。そのあいた時間にパソコンに向かって何か書いたり、時々はニュースを見たり、というような生活を送っている。パソコンに向かって打ち込んでいる文字の羅列は何なんだろう？　小説を書いているつもりなんだけど（これも含めて）、日記というか日々の生活というか、あるいは昔のことを思い出して書いてみたり、夢で見たことを書いてみたり、何も考えないで書いているような、気が、する。本能のままに書き殴る。いったい誰に見せる？カオルには見せたけどよく分からないと言われた。自分のホームページに載せても、別に反応なし。辺境の、滅多に誰も来ないようなところだしね。もう少し宣伝した方がいいのかもしれないけど、宣伝してもちょっと読んで止めてしまいそうな気がする。いかん、ネガティブな気分に支配されているな。今晩はこのくらいにしておくか。