現在朝９時４０分。始業時刻はとうに過ぎている。
『おっはよ〜』
勢いよくドアが開き菊池が飛び込んできた。遅刻だというのに、どうどうとタイムレコーダーにカードを入れる菊池の姿を、山下は呆れるように見ていた。菊池はそんな山下を気にすることなく元気に隣の席に着いた。
『いや〜まいったよ。昨日ずっと遅くまでテレビ見てたら寝坊しちゃってさ。ま〜た遅刻だよ』
山下は菊池に課長に聞こえないようにささやいた。
『菊池くんまずいよ。課長、さっきからカンカンだよ』
するといつのまにか背後に忍び寄った田辺課長の怒鳴り声が響いた。
『おい菊池！なにが「いや〜まいったよ」だ！おまえ、これで今月何回目だ？』
『そうだな、もう２０回くらいかな』
『２０回くらいって、もう月末だぞ！つまり毎日ってことじゃないか！』
『そういうことになるな。ま、細かいだ、気にするな』
『気にするなじゃない！遅刻しておいてなんだその言い方は。それに俺は課長だぞ。敬語を使え、敬語を』
『またそれかよ、毎回毎回、口を開けば、敬語を使え、遅刻をするなだ。何回も同じこと言うなよ。少しは学習したらどうだ』
『それはおまえだ！だいたいだな、おまえ入社して何年目だ？遅刻ばっかりしていたんじゃ社会人として、後輩に示しがつかないだろ』
『だったら、始業時間をかえればいい。そうだ！一番遅く来た人間に会わせて始業時間を変えるというのはどうだろう？それなら誰も遅刻する奴は理論的にいなくなる』
『ばかやろう！おまえ会社をなめてんだろう。だいたいそんなに遅刻する奴なんてうちの中でも……』
と言いかけたとき、電話のベルが鳴った。電話を取った事務員が課長に告げる。
『課長、９番に専務からです』
『え、専務から？ああ、わかった、すぐ出る。とにかく明日は定時まで来いよ』
課長はそういい残して、席を離れた。山下は、課長がいなくなってほっとした。
『菊池くん、また課長を怒らせちゃったね』
『気にしないよ。俺悪くないもん。それより、どうしたんだろうな。専務なんかに呼び出されちゃって』
『さあ、どうしたんだろうね……』
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トントン
役員室にノックの音が響いた。
『失礼します』
課長はドアを開け、深々と頭を下げた。正面には白髪頭で恰幅の良い専務が机で、新聞を読んでいた。
『お、きたか。まあ入ってくれ』
専務は田辺課長をソファーにかけさせ、自分も座った。田辺は専務からの突然の呼び出しにえらく緊張した様子だった。
『あのう、用件というのはなんでしょう？』
田辺がそう訪ねると専務は煙草に火を付け、ゆっくりと煙を吐いた。
『そうだな……その前にひとつ確認させてくれ。君は私の言うことには何でもしたがうつもりかね？』
『なんでもと言いましても……そうですね、できる範囲のことならば努力したいとは思っています』
『ふむ、そうかね。ではまずだな……』
専務は田辺の顔の前に自分の股間が来るように正面に立ちはだかり、おもむろにズボンのチャックを降ろした。
『ではまず、口でやってもらおうかな』
『は？』
驚いて、専務の顔を見上げた。
『口でやってくれといっているのだ』
『え！そ、そんな！わ、私には無理です』
『君は今、できる範囲のことなら努力したいといったではないか。無理かどうか、試してみなければ分からないだろう。それともなにか？私のものは試す価値すらないほど、貧素なものだとでもいうのか？』
『い、いえ……そんなことは……実に結構なものだと感心していたくらいで…』
『では、くわえたまえ。さあ、口を開けろ。さあ！』
『お、お願いです。勘弁してください！』
泣きそうな顔をしている田辺を見て、専務は大笑いした。
『わははは、ジョークだよ、ジョーク。どうだ面白いだろ』
『…………ジ、ジョークですか？』
『あたりまえだろ。君の緊張をほぐしてやろうと思ってのジョークだよ。それともなにか、君は私が本当にくわえさせようとしたのでとも思っているのかね』
『と、とんでもない。……いや、実は私には最初から冗談だということがわかっていましたよ。いや〜実に愉快なジョークでした。でもその割には、ずいぶん下のほうは興奮していたようですが……あ、いや何でもありません』
田辺の喜んでいる表情をみて専務は満足げに笑みを浮かべた。
『そうか、喜んでくれて私としても満足だ。ところで、用というのはほかでもない。君は私の倅が我が社に入社したのは知っているだろう』
『ええ、なんでもたいそう優秀な息子さんだとか』
『そうなんだ、いや親の口からいうのもなんだが、本当に出来の良い息子でな、将来が楽しみなのだよ。そこで問題なのがどの部署に配属させるかなんだが、いろいろ考えた末、君の課が良いだろうということになってね。どうかね、一つ息子の面倒を見てもらってはくれんかね』
『は、はい、そりゃもう実に光栄な話で。よろこんで、引き受けさせていただきます』
『それはよかった。ではついでに下半身の息子の面倒も』
『うわ！やめてください。で、いつから配属に？』
『それなんだが、君が引き受けてくれると思っていて今日から配属させることにしたんだよ。多分今頃きているんじゃないかな』
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『課長遅いね。いったいどうしたんだろう？』
山下が心配そうにしていると菊池がいった。
『なにかへまやらかしたんじゃないだろうな。まじめだけど、ちょっとぬけてるとこあるからな』
その時、勢いよくドアがあいて一人の男が入ってきた。
『ぐっも〜〜にんぐ！えぶりばでぃ』
山下たちが振り向くと、そこにはひげもじゃもじゃ、腕には刺青を入れたわいるどな男が立っていた。
つづく