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　                                                           −妖宴−

　このようなことを言った自分を恥じた。すぐに夫人は、自分はそのような |健
　こと言われても平気だと言わんばかりの表情をつくろうと、例の料理に箸 |康
　をかけた。相変わらずそれはカンタレッタの匂いを放っていた。１５世紀 |保
　にロドリゴ・ボルジア(アレッサンドロ６世)が精製したと言われるこの秘 |険
　薬。毒薬としてボルジア家に代々伝わっていたという話だが、まさかそん |を
　な効果があるとは思っていなかった。櫻井が気まずそうにいるのを察し、 |何
　夫人は自分の胸の内を正直に告白することが今の櫻井に一番だと考えた。 |ヶ
　                                                                   |月
　『確かに、おっしゃるとおりですわ。そう言われてしまいますと、わたく |も
　しは何も言い返す言葉がありません。しかし……最近こうも思うのです。 |滞
　女性にとって衰えるというのは、なによりも恐ろしいことなのです。いっ |納
　たい誰が全てに衰えた女性などを愛してくださるでしょうか。ボードレー |し
　ルの詩に、自分の醜さで赤ちゃんが泣いてしまった老婆の話があります 。|て
　その詩を読んだときやがては自分にも訪れる老婆の姿を想像して、泣いて |一
　しまいました。老いるということは死も同然なのです。わたくしは、こう |気
　している時にも徐々に死んでいるのです。どうせ月日と共に若さが死んで |に
　行くのなら、このような手段をとることになんの躊躇いがあるでしょう。 |督
　たとえそれが神を冒涜するような手段でも……』                       |促
　                                                                   |状
　　櫻井は夫人の言葉に何故か釈然としないものを感じた。しかし先ほどの |が
　件に対する負い目もあってなにも反論することが出来なかった。         |き
　                                                                   |た
　　夫人は箸を置くと、はじに置かれたティーカップに手を伸ばした。和服 |つ
　の裾から伸びた細い腕は、この季節に似合わないほど白い。櫻井は無意識 |よ
　にその腕を辿り、肩を経て胸元でぴたっと目をとめた。指先から肩に至る |し
　まで描かれた海岸線のように柔らかい曲線がぞくっとするほど色っぽい。 |先
　胸元からはその腕よりも白い肌がうっすらと汗を纏って覗いていた。その |生
　汗は陽光を浴び、まるで体に金糸が織りなしたように肌を光らせていた。 |。
　櫻井はその下にある、先ほどまで顔を押し当てていた柔らかく灯がともっ |哀
　たような無染の領域を思い出した。                                   |し
　                                                                   |い
　『あの白さは、やはりこいつの力からくるのだろうか？そして、俺もやが |ぜ

　                               - 61 -