アルバム中の"THE MASK"(8曲目)を聴くと、「地獄の黙示録」の最初のシーンがよく頭に浮かぶ。主人公が部屋の中に一人。太陽と暑さは人を狂わし、麻痺した精神状態でなにか名状しがたいものを求める主人公。汗に包まれた彼の姿をカメラはじっと見つめる。そんな退廃的な映像が頭の中に焼きついている。"THE MASK"もそんな退廃的な色合いを感じさせる曲である。水曜日の昼下がり、プールサイドに横たわる男が民族風のリズムにあわせてメロディにならない言葉を語っている。この曲がロジャー・グローバーの曲と聴いてほとんどの人が驚くであろう。グローバーは黄金期といわれた第二期ディープ・パープル、そしてレインボーのベーシストであり、優秀なコンポーザー、プロデューサーでもあった。ハード・ロックを代表するバンドに在籍していた彼だが、実際はユーリズミックスなどニューウエーブ系の音楽が大好きだという。
このCDは1978年にリリースされた、"ELEMENTS"、 そして1984年の"THE MASK"の二枚のソロアルバムを一枚に収めている。"ELEMENTS"はかなりプログレ色の強い大作志向で、このあと彼はレインボーに加入し、これまでのレインボー色を排して"All Night Long"などのポップな曲をリッチー・ブラックモアとともに作曲する。そして"THE MASK"はレインボー在籍時の作品。タイトル曲の他、80年代のニューウエーブ系ナンバーが多くを占めており、ヴォーカルもグローバー自身によるものである。