もう十一月。
連休にきょうだいの一人が来て、家の中のものの一部を持ち帰った。それからいるものといらないものの区別をして、いらないものはゴミ袋に入れるかその場に残しておいた。とてもじゃないけどいらないものすべてをその場で処分するなんてできない。そのくらいたくさんある。
たしかそれと同じ日のことだったと思うけど、テレビを見ていたら目が見えないけど音楽の好きな十歳くらいの男の子の話をやっていた。というか、見る気はなかったのだけどぼーっとしているうちにその番組が始まって、その男の子の歌とピアノを聴いたら鳥肌が立ってしまったので見ざるを得なくなってしまったのだ。
ドキュメンタリーなのだけど、その子のピアノや歌を聴くだけで、おっけー、という感じだったのだけど、でもその子の気持ちを考えた演出（それをここに書いちゃうとせっかくの演出が台無しになってしまうような気がするから書かないけど）もすごくよかった。
男の子がストリートで歌うとたくさんの人が立ち止まる。どの人も、顔を見ただけでわかるくらい感動している。呆然としている人、泣きそうな顔をしている人といった感じで。テレビを見ていた私もそんな顔をしていたのかもしれない。
ときどき地元のジャズメンたちとセッションしたりもするのだけど、競演するミュージシャンの一人は「子供の出す音じゃないですよね」と言っていた。いや、ほんとうにその通りなのだ。小さな手が信じられないような音を紡ぎ出すのだ。
男の子がおかあさんとちょっと気まずくなってしまった晩、自分の部屋でお母さんの好きなエリッククラプトンを何度も聴いて、翌日洗い物をしているお母さんにその曲をピアノで弾き語ってみせる、というのがあって、ドラマでそんなのを見てもなんとも思わないけど、私はそれを見ていて泣いてしまった。それはその番組がドキュメンタリーであるから、というような理由からではない。男の子の弾き語りがあんまり素晴らしかったからだ。
子供時代のスティービー・ワンダーみたいな感じで、将来もスティービー・ワンダーみたいになってくれたらなって思う。だってまたあの子の歌とピアノを聴きたいから。
今日はぽかぽかと暖かかった。それに休日にこんなに良く晴れるなんてほんとに久しぶりのことだった。家の中にいても外出しても気持ちのいい日。甘いものをまあ満足するくらい食べた。ケーキバイキングとか行きたいな。太るかもしれないけど、着れなくなってたジーンズが余裕で着れるようになったくらいだから、大丈夫でしょう。
今日はもういいけど、連休に入る前に体調を崩していた。寒かったからかもしれない。風邪を引いたのか、おなかの調子も悪かった。仕事を早退して家でごろごろしていたらだいたいよくなったけど。あるいはストレス、ということもあったかもしれない。
そいうえば最近着るものに全然お金を掛けなくて、昨日も寒さがしのげればなんでもいいやって適当な上着を買ってきたのだけど、今日になってよく眺めてみたらなんか全然だめな感じだった。ちょっと悲しかった。昨日は午後になってだんだん天気が悪くなってきて、気分が落ち込んでいたのかもしれない。あともう少しだけお金を出せば、もう少しまともなものが買えたのに。
連休いろいろしたからちょっと疲れたかも。今日は早く寝よっと。
引っ越しをした。生まれて初めて。「生まれて初めて」っていうのはある種の心許なさと、それを上回るわくわく感がある。と思う。でも忌むべき「生まれて初めて」だったらわくわく感っていうよりもぞわぞわ感なのかもしれない。
いや、生まれて初めてじゃないかもしれない。物心付く前に家の建て替えで何ヶ月かを祖母の家で過ごしたことがあったのだ、というかあったらしい。そういう写真を見たことがあるし、きょうだいもそういうから事実だろう。でもまあ実質的な転居は生まれて初めて、といってもいいだろう。
まだいろいろ揃っていないものが多くて、わたくし的には不自由な暮らしをしている。たとえば本棚がないので三十数箱の本入り段ボール箱がそこらへんに積み上げてある。部屋が狭くなって不便、というよりも本を取り出すことができない、ということに関してとてつもなく不便を感じる。近いうちに天井まで届く本棚を二つ組み上げてそれに収納しようかと考えている。
三十数箱というのはいかにも少ないが（入れてみればわかるけど、みかん箱くらいだとそんなにたくさん入らないのだ）、少なくともそれと同じくらいの本をそれまで住んでいた場所に残してきたのだから仕方がない（って何が仕方がないのか）。「これだけはどうしても手放せない本＋α」だけを持ってきたのだから。でも、もし余裕があればもう少し運んできたいのだが、アパートの床が抜けないかと心配でもある。なにしろ本というのは体積の割にやたらに重く、引っ越し屋からは忌み嫌われているらしい。友人はそれで引っ越し屋から罵詈雑言を面と向かって浴びせられたそうだ。わたくし的にはどうしてもそれを避けたかったので、引っ越し屋からもらった箱を小さく改造したり、近所のスーパーからみかん箱をたくさんもらってきたりして、それらにせっせと詰め込むことにしたのだった。
最初、引っ越し屋にもらった小さい方の箱に漱石全集を詰め込んだら全部入ってしまい、無意味に嬉しくなったのだが、さて別の部屋に運ぼうとしたらこれが持ち上がらないのだ。たぶん、私のような非力なヤツだけでなく、誰にとってもみかん箱というのは本の運搬にはベストな大きさであるような気がする。
さて、新しい部屋での新しい暮らしなのだが、ママゴトみたいで変な感じだ。何もかもがコンパクトだからそう思うのかもしれないが、どう考えてもこっちのほうが一人暮らしには向いている。せっかく新しい生活を始めるのだからと念願のベッドを購入したり、木目調家具を揃えたりしたら友人の一人に「クロワッサン」とか言われてしまった。でもきっとその通りだ。これから先どうしようもなく貧乏してしまえばまた違ってくるだろうけど、そうでないならばこういう「趣味」のほうがわたくし的にはリアリティがあるというか、基本的に少女趣味なのだと思う。身の回りをとりあえずきれいなもの、美しいもので包囲してその外側を見ないようにするのが少女趣味であるならば。
越してきた当初はエアコンさえなくて、しかもものすごく寒い日なんかもあったりしてかなり辛かったけど、勤労感謝の日にエアコンを入れてやっと人心地ついたって感じ。でも、玄関から冷気が足下に忍び込んできたりして、けっこう寒い。しきりのカーテンなんかも設けてみたけど、それでも足りない。もう一工夫必要かもしれない。
しかし、まだテレビを見ることができない。なんか、前に住んでたところとアンテナの付け方が違うのでうまくいかないのだ。まあ、テレビがなくてもそんなに困らないけどね。
新居の比較的近所にコンビニエンスストアがあって、まだ台所の環境が十分に整ってないのでよく利用させてもらっている。今日は出来合いの弁当を買ってきたのだけど、そしたらレジで「暖めますか？」なんて聞かれてしまった。これまでほとんどコンビニを利用してこなかったので最初なんて言われたのかわからなかったけど。で、つい断ってしまったのだ。というのも、コンビニで暖めることができるのなら自分の家でも暖めることができるに違いない、と瞬時に考えたからだ。部屋に戻ってから電子レンジに掛けたらうまくいった。
コンビニ弁当に圧倒的に欠けているのは野菜で、ほんとに申し訳程度しか入っていない。やっぱり自分で作った方がやすいし、野菜をたくさん取れるので、できるだけ早く台所環境を整えたい。
そいえばコンビニに小学生くらいの女の子が何人も群れていて、「お母さんの分のおにぎり買うの忘れた」とかしゃべっていた。それがいつもなのかどうかは知らないけど、あの子たちもあの子たちのお母さんもコンビニのお世話になっているのだなあと。それはそれで仕方のないことだと思うし、どうしようもないことなんだけど、でもやっぱり食べることはもう少し大切にして欲しいななんて余計なことを考えるのだった。やなやつ。
でもわたくし的には食べることと寝ることはとても大事なことで、おろそかにしてはならないことであるのだ。で、どうでもいいことはお風呂とか。体を清潔に保てればそれでよし、というか。温泉も興味がないというよりも嫌いだしね。
で、土曜日にようやく台所の最低限の環境を整えた。でもまだあれが足りないこれが足りないという状態で、快適に料理をできるようになるにはもう少しかかりそうだ。でもひとつだけどうしようもないのがシンクが小さいこと。これまで住んでいた家のそれと比べるとたぶん半分くらいの広さしかない。どうも使い勝手が悪いが、だんだんに慣れていくことだろう。あと、水回りとガスの位置関係が逆なのも、慣れないとなんだか使いにくい。
そしてなんとなく風邪を引いてしまったのか、体調が今ひとつだ。あるいはエアコンで室内の空気が乾燥しすぎているのかもしれない。加湿器を導入した方がいいのだろうか？でも加湿器を入れたら湿度が高くなりすぎてパソコンが壊れるなんてことはないのだろうか。しばらくは家の中で乾ききらない洗濯物を干すことで対応したい。
でもやっぱり自分で作った料理の方がコンビニ弁当よりもおいしい。いや、料理のできはコンビニ弁当の方が上だと思うけど、自分で作る場合の方が圧倒的に勝っているのが料理の鮮度というもので、じつにそれに飢えていたのである。コンビニ弁当に限らずできあいの弁当やおかずを買うときに気になってしまうのは賞味期限よりも製造日時で、あ、できあがってからこんなに時間が経ってるんだ、って思うとなんだか買う気が失せてしまうのだ。