深夜に某所で花見。といっても公園の桜をただ歩きながら眺めただけのこと。街灯に照らし出された夜の町並は空気がないみたいにくっきりとしている。橋の向こうの柳も然り、桜も然り。そよぎもしない桜の花はますます真空中に取り残されたみたいだ。
終電はとっくに終わっていた。タクシーで帰ると案外お金が掛かる。ほんの二日前に体験済みだ。で、友達がプジョーのマウンテンバイクを貸してくれるというので好意に甘えた。でもしばらく乗っていないというＭＴＢの状態はあまりよくなかった。サドルはがたがたいうしライトは盗まれていた。でもタクシーに乗る気はいまさらなかったし、それに夜の住宅地を自転車で走り抜けるという誘惑にどうして打ち勝つことができるだろう？
自転車に乗るのが数年ぶりであるとか整備状態とか警官にあったら嫌だなとかいうような不安は走り出したとたんにどこかへ吹き飛んでしまった。そのくらい気持ちよかったのだ。夜中だというのに、あるいは夜中だから、気持ちが高揚してくる。
甲州街道から水道道路へ。細い路地へ入り、急坂を下り、踏切を渡り、やってきたのは川沿いの道。時刻は午前二時半。川沿いの桜は満開で、速度を緩めて眺めたり、ときには全力疾走で桜並木の下を走り抜ける。
家に帰りつく頃には少し汗ばんでいた。気持ちが高揚したままでなかなか寝つけなかった。
翌日つまり今日、緩んでいたサドルのねじを締め、ギアに少し油を差し、全体をきれいに拭いてギアの調子を確かめているうちに、走りに行かずにはいられなくなった。デジタルカメラを携えて川沿いの道へ。よく晴れていたけど北風が少し強くて桜のはなびらが吹き飛ばされ、川面を漂う。
桜の季節にそのあたりまでやってきたのはずいぶん久しぶりのことだった。桜の木はどれも以前よりずっと大きくなって、枝振りも花の色も見事で、これまでに見たことのないほどだった。
川沿いの所々にある小さな公園にはお花見をしている人が結構いた。ベンチに腰掛けたりシートを広げたりして、お弁当を広げていたりするのだ。空と人々をさえぎるものは桜の花びら以外にはなく、木陰は不思議な明るさに包まれているのだった。
帰りは別なコースを通ってみた。ずっと前から大好きな、ある桜の木に会いたくて。その木はある家の玄関の横にあって、道路の反対側まで覆い尽くすほど見事に枝を伸ばしている。邪魔といえば邪魔なわけで、いつ切られても仕方がないとは思っているのだけど、その家の人や近所の人に愛されているのか、今年も見事に咲いていた。
どういうわけか、走っているうちに涙と鼻水が止まらなくなってきたので、それ以上寄り道をするのを断念して帰宅。花粉なんだろうか？それとも久しぶりに走ったので体調を失調したのだろうか。