昨年末からずっと不調だった。風邪から気管支炎をこじらしていたのだ。それがここへきてようやく持ち直してきた。
不調だった期間、本は読まず文章は書かず、という暮らしをしていた。体力もかなり落ちていたのでそれどころではなかったのだ。のか？書くほうはときどきしていたが、読むほうはまったくだめだった。本を手に取るだけのことさえできなかった。
で、その間何をしていたかというと、体力的に多少余裕のあるときにはずっとプレステをしていた。最初のうちはいくつかのゲームをとっかえひっかえやっていたが、正月過ぎくらいからはずっと『ＬＳＤ』というゲームばかりしていた。
『ＬＳＤ』が出たのは１９９８年のことで、プレステを買ったのはこのゲームをやりたいがためであったりした。でも去年の冬は他のゲームにはまっていたので『ＬＳＤ』はそれほどたくさんはやらなかった。あとから考えると、そのときしたくらいのプレイ時間では『ＬＳＤ』のよさはほとんどわからなかったということもあったかもしれない。
それがこの冬体調を崩して風邪薬を飲みながらなかば朦朧とした意識の中でやっているうちに、その面白さにすっかりはまってしまったのだ。
どういうゲームかというと不思議な感じのするフィールドを当てもなくさまようというそれだけのものだ。ドリーム・エミュレーターということになっていて、一日ひとつのタームとなっている。その間に「自然界」という大きなフィールドやその中に点在する「街」の中をあてもなくさまようのだ。壁や物に体当たりすると世界のほかのどこかの場所に放り出される。そしてあちこちうろうろしているうちに不思議なイベントが起こったりする（観覧車に近づくと観覧車に乗れるとか）。
・・・文章がへたくそなことを別にしても、何が楽しいのかはなかなかうまく説明できないな。で、いま『ＬＳＤ』で取り組んでいるのは地図を作成することだ。世界のところどころに「世界地図」があるのだが、それを元に、どこにどの「街」があるのか、川はどこを流れているのか、というようなことを世界をくまなく歩き回って調べるのだ。その作業もかなり進んできた。
でもたぶんまだ遭遇していないイベントもあるに違いないし、世界の中で行ったことのない場所もありそうだ。もうしばらく『ＬＳＤ』の世界の中を歩き回る日々が続きそうだ。
それから、『ＬＳＤ』の世界は流動的で、同じ場所でも行くたびに風景が違っていたりする。昼であるとか夜であるとか、霧が出ているとかすっきりと晴れているとか。あと、建物などにとんでもないテクスチャーが貼り付けられていたりして（地面にびっしり文字が書かれていたりとか）するのだが、それがまたよかったりするのだ。何がよいのかは・・・とにかくよいのだ。
このゲームを面白いと思える人とは、かなりよくわかり合えるのではないか、という気がする。
体調はなかなかよくならない。そういうこともあって、書くことも、本を読んだりＣＤを聴いたりすることも滞りがちだ。たぶんそのせいでそのどれもが少しずつ下手になっているのではないかという気がする。理性だろうが感性だろうがなんだろうが使わなければ錆付くのだろうと思う。
でもなんとか少しずつ本を読んだり（薄い本ばかりだが）、買ったまま封も開けずにいたＣＤも、少しずつだが消化し始めている。
椎名林檎のマキシシングルももちろん買った。近所にはＣＤを買える店がないので、わざわざ途中の大きい駅で降りて買った。新宿へ出てもよかったのだが、体力的に問題があった（そう、新宿へ出るのも大儀なほど体力を無くしているのだ）。
でも今日は椎名林檎ではなくて、Bonnie Pinkのことについて書こう。
『Bonnie's Kitchen』というベストが先月と今月それぞれ一枚ずつ発売された。先月の『#1』は歌詞が日本語の曲ばかり、今月の『#2』は歌詞が英語の曲ばかり、という構成になっている。
Bonnie Pinkのアルバムはまだ三枚しか出ていないし、トーレ・ヨハンソンがプロデュースした曲が主に収録されているので、二枚目と三枚目のアルバムの大半の曲が収録されている、といってもいいかもしれない。
でもそれはそれとして、ベストにはベストの味わいがあるように思う。シングルバージョンや未発表音源が収録されている、ということを別にしても、ベストに収録されている曲順で聴いてみる、というのはそれだけで新しい体験であるように思える（もちろんそういう順番にテープなりＭＤなりＣＤ−Ｒに落として編集する、という方法だってあるだろうけど）。
Bonnie Pinkを聴いたことのない人に、いったいどうやってこの魅力を伝えたらいいのだろう？もちろんBonnie Pinkに限ったことではないけれど。冬のよく晴れた日曜日に紅茶での飲みながら聴けば至福って最初書こうとしたのだが、でもそれはたとえばMJQの『コンコルド』でも言えることだだ。両者の差異、というのは確かにあるけど、それは引き算できるようなものではない。
で、ライナーノーツを参照すると、なるほどうまいことが書いてあるなと思う。評論家というのは評論すべきものについての語彙をじゅうぶんに持っていなければならないのだろう。
でも私はそれを放棄しよう。私がそんなことを書いても仕方ないから。
だからたとえば『#2』の「Only For Him」の最後の部分でのリフレインが素晴らしいとか（pinkという言葉を辞書で引いてしまった──極致なんて意味がある）、初期Bonnie Pinkの歌声はいまとはまた違ってソウルフルで魅力的だとか、そんなことを書いてみる。
でもたぶん私が好きなもの、ということ以上の結果は出せないな、と思う。
追記：Bonnie Pinkの英語の歌詞は、ほんとうにうまいと思う。日本語で考えてからそれを英語に訳するのではなくて、最初から英語で考えたって感じ。韻を踏んでいたりもするし。"forget me not"と「忘れな草」の違いというか意味しているもの/ことのずれ、というあたりが意識されているあたりがBPならでは、なのかも。