以前同じ著者の『魔術と錬金術』（ちくま文庫）を読んで面白かったという記憶があって、読んでみる気になったのだ。
『魔術と錬金術』はほとんど同じ時期の、特定のテーマだけを取り上げたものだが、本書ではルネサンス全般について述べられている（タイトルを見ればわかることだけどさ）。
うーん、こういう本の感想は難しい（どんな本でも難しいけどさ）。ルネサンスの入門書としてはとても優れているように思えます。変な風に全体をひとくくりにしてしまうのではなくて、個々の事例をツボを押さえて説明してくれている。参考文献リストが付いているのが嬉しい。しかも文庫、新書のみ、というところも嬉しい。
ジュニアでなくても入門者には手頃ではないでしょうか。
以前ある人と話をしていて、日本の小説は小説のようでありながらどこか小説とはいえない部分がある、というようなことが話題になったことがある。確かに言われてみれば、そうかもしれないと思ったのだけど、いったい何がその原因なのかはよくわからなかった。
『楡家の人びと』を読んでいて久しぶりにそのことを思い出した。というのも、この小説は日本の小説としては「小説度」がとても高いのではないか、と思ったからだ。
作者はマンの『ブッデンブローク家の人びと』の影響の元にこの小説を書き始めたらしいが、たぶんそのことも関係しているのだろう。
恥ずかしながら『ブッデンブローク家の人びと』を読んだことがないのでそちらでどうなっているのかはよくわからないが、『楡家の人びと』では作者北杜夫の祖父の代からの一族がモデルとなっている。らしい。少なくとも、祖父がモデルらしい楡基一郎が青山に異様な造りの脳病院を建てたということは、事実と符合している。もちろんそんなことは小説と関連づける必要はないのだが。
「小説度」というのは、「書き手」の自意識のありようと深く関わっていると思うのだが、それがこの小説では絶妙なのだ。あまり正確な言い方ではないが、「対象」との「距離」が微妙に、場合によっては大きく揺らぐのだが、そのために突き放しているでもなくべったりしているでもない、かといって平板でもない、何ともいえない感じをあたえるのだ。
……不毛な言葉を重ねてしまいましたが、とにかく素晴らしいのです。勝ち気な女たち（もちろんそういいきれないのだが）と、精彩を欠く男たち。ただし基一郎は別、ひとりで妖しい魅力を放っている。とにかく、ひとりひとりの登場人物がすべて恐ろしく魅力的なのだ。そういう読み方をするだけでも、読む価値はあるでしょう。
買った覚えはないけど蔵書の中にあった本。何となく手にとって読み始めた。
一緒に暮らしていた母親が死んで、叔母の家に引き取られていたジョエルが、一通の手紙によって父親から呼び寄せられる。そして付いた場所は、小さな町からも何マイルも離れた荒れ果てつつある屋敷だった。
これ以上書くとネタバレするので、気になる人は自分で読んでみるように。
で、解説には少年が大人になる前の不安定さ、みたいなことが書いてあったと思うのだけど、たしかにそれはその通りだろうけど、私はそれよりもジョエルが少女みたいに華奢なところとか、近所に住んでいるアイダベルがほとんど少年のようだったりするところのほうが気になった（似たようなか所は他にもたくさんあるのだけど、ネタバレするので書けない）。まあ、私の関心が主にその辺にある、ということなのだろうけど。
しかしまあ、こんなに有名な本を今頃読んでいる私って。でも、若い頃よりも今読んで正解だったと思うから、まあいいんだけど。それ以前に若い頃には本なんてほとんど読まなかったけど。
復刊をずっと待っていた一冊。そう、佐藤亜紀さまのどの本だったかに書かれていたのを読んでから、ずっと気になっていた。それ以前には『ファンタジーノベルス大賞』がらみでこういう小説があることは知っていた。でもそのときはあまり気にならなかった。時期が来ていなかったのだろう。私の中での時期が。
クラシック音楽かクラブ系の音楽のどちらかを少しでも愛したことがある人なら、かなり楽しく読めるのではないでしょうか。私はどちらにもそれほど詳しいわけじゃないけど興味がないわけではないので、とても楽しめました、というよりも何ともいえない気分になってしまいました。そう、本を読んでいてときどき陥るアレ。脳がオーバードライブしてしまい、読み終わるまで他のことをいっさい考えることができなくなる、アレ。
早い話が読みながらイッちゃうわけですね。もちろん脳内で。
だいたい、音楽を一度でも愛した人ならここに出てくるようなものに魅せられないはずがありません。音楽から愛されなかった人なら、なおさら。
で、私はこれを読み終わってクラブ系の音楽を聴きたくなったのではなく、ブルックナーの交響曲を聴きたくなってしまったのでした。そう、この小説の中でブルックナー教授は大活躍するのです。主人公ではありませんが。
でも聞きたくなる理由は、ブルックナーが自分の書いた交響曲を演奏してもらいたくて、でも断られたり（実際そういうことがあったようです）、そしてその交響曲には「交響曲第０番」という名前が付けられているらしいのです（小説にはそこまではでてきませんが）。
そして、もうひとつの理由は、たぶん最後まで読んで貰えばわかるのではないでしょうか。