岩波ジュニア文庫は割と好きで、過去にもいくつか取り上げたようなきがします。文章が平易で、専門的な知識がまったくなくてもあまり苦労することなく読めるというのがその理由です。その分、著者はそれなりの苦労をしているに違いありませんが。

　本書は自伝のようなものです。というか自伝です。ちょっと自信過剰じゃないのかなあなんて失礼なことを思ってしまったりする部分もあるのですが、でもそのくらいの自信がなければ研究者として業績をあげることなんてできないのかもしれません。というか、「ごめんなさい」って自伝じゃ太宰のパロディみたいだし。でも読んでいて不愉快というようなことはありません。思わず微笑んでしまうような、という感じですね。

　著者の研究者として歩んできた道は２０世紀後半の宇宙物理学の発展と重なっていて、著名な研究者や発見・観測された現象、学説などが平易に述べられます。そして同時に語られるのは著者がどんなことに興味・関心を持ってさまざまな課題に取り組んで来たか、ということが語られます。

　つまり、本書を読めば著者の見てきた宇宙物理学の発展と、それに関わってきた研究者たちがどんな人たちであったか、そして、研究への取り組み方みたいなものが自然とわかるようになっています。

　宇宙の話に興味はあるけどなかなか取っつきにくい、という方には本書は向いているかも知れません。

　須賀敦子さんが病床で推敲をしていたとあるから、ほとんど最後の作品なのだろうか。

　読んでいて、私の母親とだぶるところがあった。いやむしろ、伯母とだぶるのかもしれない。伯母と母親の姉妹はどちらも本好きで、家にあった改造社の大衆文学全集などはたぶんすべて読んでいたのだろう。母親が須賀敦子さんと五つ違いで、伯母は須賀さんと母親のちょうどあいだ、年代的にも重なる部分があって、もちろん話される内容はまるで違っていたのだけど、懐かしいというか既視感というかそういうものを感じてしまうのだ。

　私自身は小さい頃から本に親しんできたわけではないので自分の体験としては掴めないのだけど、母親が何度も話していた、本のない場所での本に飢えた暮らしというのは須賀さんの文章に現われるそれと、同じでなくてもとても近いものなのだろうと思うのだ。

　残念だったのは、たぶん私の脳がこの本を読むのに適切な状態になかったということだ。

　いつか、この本をもう一度読みたいと思ったとき手に取れるよう、手放したりせずに手許に置いておかなくては、と思う。