いつどこでこの本を買ったのか、ちっとも覚えていない。だからどういうつもりで買ったのかもわからない。タイトルは聴いたことあるけど未読の名作を読んでみよう、とでも思ったのだろうが。たぶん。

　プレ・ロンドン・パンクって思っちゃいましたよ。セックス・ピストルズが生まれる２０年近く前のことでしょ？書かれたのが。

　表題作を始め、ブルーカラーの価値観爆発って感じなんだけど、この姿勢ってパンクでしょ？ブルーカラーかどうかってことじゃなくて、いわゆる社会の根本をなしているらしい価値観にファック・オフってやってみせるのは。

　ああ、書いててなんか恥ずかしいぞ。つまり、青年の主張ってことなんだろう。それに、こういう言い方は正しくないかもしれないけど、「正しいブルーカラー」は本なんて書かないし読まないし、もし読むとしたらポルノ小説、ってほうがそれっぽいっていうか。

　そういうことをどこかで源一郎さまが書いていたな。

　でも、オリンピック見てて思っちゃったけど、選手の目線じゃなくてその両親やコーチの目線で見ちゃってるんだよね。「もう、あなたはじゅうぶんにやった。メダルが取れなくても最高だ」って抱きしめてあげたくなっちゃうっていうか。

　すっかり歳を取っちゃったってことかな。

　このシリーズで、いままで読んだ中でいちばんよかったかな。っていうか好み。

　その中でもよかったのをいくつかピックアップ。

「昼の花火」山川方夫

　これぞ青春、って感じ。といっても、あの暗くてじめじめしたやつじゃなくて、青春や恋愛という目線で切り取ったきらきら感。

「女の顔の上に、斜めに人びとの方がそびえ、どの顔も申し合わせたような明るい表情で、グラウンドの球の行方を追い、眸が動いている。さらにその上、人びとの顔で埋まった観客席の斜面を照りつけて、青空があった。

　太陽は、その中央近くにある。

　誘われたように、女も空を見上げる。口紅が、青空に映えて、印刷したような鮮やかな色になった。」

　この部分を読めただけでも、とても嬉しい。

「逆光線」岩橋邦枝

　これはそんなにお気に入りじゃないんだけど、当時の若者言葉がふんだんに？使われていたりするんだけど、それらの言葉をなぜかなんとなく知ってたりするので読んでいて恥ずかしくなってしまうのだった。もっと古ければそんなこと思わないんだろうけど。いや、この小説が書かれていた時代に生きていなかったのではあるが。

「首のない鹿」大庭みな子

　ある時代、って感じなのかもしれないけど、なかなかによいのであった。男の女への対し方が素敵なのであった（たとえようもなくひどい、という言い方もできるだろうけど）。

「ふたりとひとり」瀬戸内晴美

　ひとりの男とふたりの女の奇妙な関係、ということなんだろうけど、文章を読むことが無上の快感に思えてくるのだった。

「彼女の膝の上で男はゆっくり首を廻し、顔を横向きにして女の方に視線を流してくる。彼女は白い丸い顔を女の肩越しにぼんやり窓の方へさしむけ、手は無意識のように男の髪をまさぐったり、時には頬にのびて、この上ないやさしさでそこを撫でたりしている。耳の後ろに彼女の指のとがった爪が届きまさぐる時、男は喉を撫でられている猫のようにいっそう目を細めた。細くほとんどとざされた瞼のかげから男の視線が自分の表情を窺っているのを女は感じる。」

「病身」高橋たか子

　繊細で病弱な男の病気を楽しんでいるみたいな感じがなんともいえず、楽しい。楽しいっていうのとは少し違うかもしれないけど。

……疲れてきたのでこの辺でやめます。