またもや松浦理英子のエッセイ集。この「エッセイ」にはナルシスティックな雑文、というよりも論文的な意味を強調しておきたいかも。論文ではないのだけど。

　これを読んで、先の「ポケットフェティッシュ」は多少読み違えていたのではないか、という気がした。読み違えというよりもちょっと読みが足りないんじゃないかって。

　で、結構濃いので全部を一気に読もうとすると鼻血が出そう。澱の出過ぎたフルボディの赤ワインというか、じっくり煮込みすぎたビーフシチューというか、煮詰めすぎたチョコレートというか。

　駄目ってことじゃなくて、過剰さがあるということ。もちろん肯定的な意味での過剰。

　ここまできちんと考えて書けるなんて。骨太の思想家。というか、本当はこのくらい考えて書けるのがあたりまえのはずで、それができないのは単に水準に達していないのだろう。

　中身についてもいろいろ書けると思うのだけど、それはまたいずれ。

「優しい去勢のために」にも出てきたので、つい読んでしまいました。というか、基本図書でしょこれ、ってやつですね。今まで読んでなくてごめんなさい。

　１９５７年に書かれたことを考えれば、ほんとうに素晴らしい！しかし、２０００年に実現されていなかったものが書かれていたり、その逆もあったりして、未来を予測するのって難しいんですね。やっぱり、コンピューターがこれだけ普及したってことで機械に対する考え方がそっくり変わってしまったのかもしれませんね。移動通信体を使って少女が売春する未来、っていうのは５０年代にはまだ考えられなかったのかもしれない。というよりも、ハインラインには無理だったのかもしれない。

　なんか、未来はバラ色って感じで。古き良き時代というか。古典として本当に素晴らしいとは思うけど、「アルジャーノン」みたいに感動することはできない。私のせいかもしれないけど。

　いまさら私が書くべきことなんて何もないような気がする。

　読んでいるうちに『フーコーの振り子』を思い出してしまいましたよ、なぜか。しかし「ヴァリス」という映画を見てみたいものですね。誰か作ったりしてないのかな？

　続編もそのうち読んでみたいですね。

『抱擁家族』の３０年後のすがた、ということで新聞連載されたらしい作品。

　壮絶。アル中廃人になった長男をどうやったらどこかの病院で預かって貰えるかと東奔西走というよりも右往左往するさまは、ユーモアたっぷりに描かれているけど（冗談交じり、という意味ではない）、私の体験と重なって、読んでいるうちに気分が滅入ってくるのであった。

　自分で動けないこともないけど回復の見込みが無く、まっとうな社会生活を送ることは不可能で、家族や周囲に対してどんなことをしでかすかわからないような状態の人間を、それよりも体力的に劣る人間が世話をしなければならないかもしれないことへの恐怖、というのがあって、たとえその人間をどんなに愛していようと持て余さずにはいられないわけで、ましてや後妻に来た立場からすれば、なんてことを思わずにはいられないのであった。

　それは小説のひとつの断面に過ぎないのは言うまでもないことだけど。

　でも、八十を過ぎてこれだけの分量の小説を書けてしまうというのはどういうことなんだろう。司馬遼太郎はある年齢に達して「体力的にもう小説を書くのは無理」と言ったとか聞くけど。ジャンルが違うというのもあるかもしれないけど、それにしても。