すばらしい。でもそれなりの緊張感を持って読まないとすぐに字面を追うだけになってしまう。疲れているときは駄目だし、電車の中も以外とだめだった。それも最近疲れ気味のせいかもしれないけど。
ヴァージニア・ウルフはあんまり読んでいないのだけど、それは何よりもテキストを入手しにくいからに他ならない。だっていま手に入る文庫っていったらこれと同じくちくまの「オーランドー」くらいのものではないか。角川だったような気がしたけど、以前は「波」や「灯台へ」も収録されていたというのに。わたしはどちらも復刊で手に入れた。しかし、「波」は挫折してしまったが。それにいまどこにあるのかわからない。
あとは、みすずのハードカバーを手に入れるしかないのだろう。こないだ読んだサイードの「知識人とは何か」に「自分だけの部屋」が出てきたので思わず手に入れてしまったが、２２００円もした。比較的良心的な価格だとは思うけど。
で、どの短篇とは書かないけど（ネタバレするので――文学だってネタバレが怖いというのはあると思うので）、蝸牛が出てくるのが気になる。以前きょうだいの一人が英国に留学していたとき、蝸牛は英国ではあんまり人気がないというのを聞いていたので。英国では蜘蛛の方が人気があるのだとか。あと、カエルも割と人気がありそう。ロンドンでかわいいカエルのケーキを見かけたりしたから。カエルの石けん皿や鍋つかみなんてのも買ってきたし。
ところどころもとのテキストを参照したい箇所があった。たとえば以下のような箇所で。
「「憐れな、憐れな、憐れな」その言葉の響きの何と美しいことか。木槌で乾いた木材を叩くようなその音。海が不穏さを増してゆく時の、波の色合いが濃くなる時の、その昔（かみ）の鯨捕りの心臓の鼓動の音。「憐れな、憐れな」苛立った者たちの魂をつかのま宥め、和らげる鐘の音のようなそれ。」（「書かれなかった長篇小説」）
でも最初から原文で読むのはたぶん無理だろうな。
ついこんなのを買って読んでしまった。復刻版らしい。もとの本は８０年代、戸川純がもう少し若かった頃に出たらしい。
当時思ってた以上に戸川純は知性の人なんだなって。あとは他の人に真似のできない種類の美しさ。
「パラダイスビュー」という映画を見たいのだけど、見るのは難しそうだ。当時見ておけばよかった。あの頃はなんか抵抗あって見る気になれなかったんだけど。戸川純じゃなくてＹＭＯ的なものに。
書店で何気なく手に取った一冊。だいたいシュニッツラーなんて作家がいたことさえ知らなくて、ましてやウイーンだのフロイトとの関わりなんて知るよしもなかった。
収録作は三篇で、どれもこの作者の後期の作品に当たるのだそうな。でも有名なのはこれより前に書かれた作品だそうな。知らない私が無知でした、ごめんなさい。ってところか。
おもしろいけど、なんかオヤジ臭いというか。いや、渡辺淳一臭いと言った方がいいのかな。作品で描かれているのとは別に、すべての女性は自分に感心がある、という妄想を主人公が抱いているように見えるのだ。物語の中では必ずしも妄想でないというかまったくその通りだったりするのだけど、そういう物語を描いてしまうところが妄想臭いというか。本当にそんなことを思っているかどうかはともかく。なんかその辺のオヤジ臭さがうんざりなんだけど。でも面白いけど。そうそう、この人も医者系の作家らしいんだけど、なんか医者の作家って性欲余りすぎというかそんな感じがしてならないと思うのは偏見かもしれないけど、それを偏見だというならとりあえずこの人と渡辺淳一をどうにかして欲しいものだと思いますね。
これはすごい！っていまさらいうようなものでもないような。単に私が読んでいなかっただけのこと。失踪した男を追う興信所職員が、内に等しい手がかりから、徐々に背後に隠された事実を探り当てていく……とならないところが推理小説とは違うところ。久しぶりに我を忘れて読書に没頭してしまいましたよ。さわやかな読書間を残す作品とは言えないはずだけど、読み終わったあととても嬉しい気持ちになれた。「おいしい」小説を読んだ満足感というか。でもそういう読み方ができてしまうということは、すでにこの小説は第一線を退いているのかもしれない。賞味期限を過ぎてはいないとしても、もうじゅうぶんに熟成されているというか。小説としての面白さはむしろ今の方が楽しめるのかもしれない。距離ができてしまっているぶん。でも距離を保った状態でじゅうぶんに楽しめるというのは、すごいことなんだろうという気がする。
出版当時読みたいと思っていたのを古書店にて入手。ものすごく素晴らしいエッセイ集というわけでもないという気がするけど（なんて失礼な言い草！）、何ともいえなく共感してしまうのであった。っつーのも、ペニス礼賛マッチョ男どもの貧困且つファシスト（わがまま）振りを一刀両断、じゃないけどいなしてしまう感じ。性器至上主義的エロティシズムって、その権力構造とかをとりあえずおくとしても、なんか、ひどく貧しいものに思えてしまうのだ、わたくしは。目的がはっきりしているということはつまり無神経になること、鈍感になることであるのだから。
子供のポルノに対する著者の見方はまったくまっとうであり、正しい。でも世の中は（少なくとも日本は）このエッセイが書かれた頃とそんなに変わってないんじゃないのじゃなかろうか。
ハヤカワ文庫版もあったかもしれないけど、私の手に入れたのは角川文庫版。「野生時代」に連載されていたとか。そういえばそんな雑誌もあったね……一度も見たことないからどんな雑誌か知らないけど。
とても８０年代的。そういう言い方がバカげているとわかっていても、そういいたくなる。だってこれはあのときにしか書けなかったでしょう、やっぱり（とはいってもその当時私はまるで違った生活の仕方をしていたのだが）。
ものすごくあの時代っぽいと思うんだけど、過去になってみると、どうしてこんなにも世紀末的なんだろうって。バブリーだったから？いずれにしても今につながるあれやこれやが最初に華やかに見えたのがこの時代だろう。たぶん、ある種の貧乏たらしさが最初に隠蔽された、あるいは引退した時代。筋肉よりも頭脳。健康よりも不健康……これはちょっと違うか。汗くささよりも清潔さ。無垢よりも神経質。美しいよりもカワイイ。などなど。
世紀末的、っていうのは、明日世界が消滅するかもしれないという予感みたいなものがあちこちに散らばっているということ。去年おととしの状況とはまた別。予感であって、実際にそうなりそうではない、ということ。
息苦しいほどの懐かしさ。あぁ。わたくしもすっかり歳を取ってしまったことよ。
こういう本はきちんとしたレビューを書くべきなのかもしれないけど、めんどくさいし、私にそれができるとも思えない。
ビルマ、今はミャンマーで終戦を迎え、その後の捕虜生活を通してそれまで知識として知っていたイギリスに対する見方が大きく変わった、という内容。もちろんその内容が大事なのだけど。
ひとことでいえば、イギリス軍は日本軍の捕虜を対等な人間としてよりもある種の家畜のように扱ったということ。しかもそれが論理的な説明が付くような方法でなされる。
著者は怒りを隠してはいないが、それ以上にとても公平にイギリス兵を観察し（呆れる点も尊敬できる点もどちらも書いている）、インド兵を観察し、グルカ兵を観察し、ビルマ人（そう書かれているのでそう書くけど）を観察する。冷徹というのではなく、自らの感覚や視座を明らかにして、その上で書いていくというやり方。
だからとても具体的で、ユーモアがあり、という具合。
私よりもずっと若い人が読んだらどんな感想を持つのだろう？とても興味を引かれる。