映画がわかんないなら小説はよくわかるかっていうと、それもあんまり自信がありません。だからわたくしの書くものは決して書評なんてものじゃなくて、もしかしたら感想ですらなくて、阿呆の戯言、くらいに考えておくとよろしいのではないかと。せめて笑いくらいとれればよいのですが。

で、恩田陸という人のことはまったく知らなくて、ある場所である方から勧められました。仮にＲさんとしておきましょう。そのときは少々アタマがおかしかったので、失礼なことを申し上げたかもしれません。ごめんなさい＞Ｒさん

あ、実をいうと『秘密屋』も人に勧められたものだし『富江』も人に勧められたものだったりします。人に勧められたものを素直に受け入れると、世界が広がりますね、やっぱり。

で、『光の帝国』です。よかったです。すごく面白かったです。勢い余って解説まで読んじゃいました。最近解説はあんまり読まないんです。興を削がれることが多いので。

でもこの解説では『光の帝国』という題名に対する「誤解」というようなことが最初に書いてあって、私も同じような誤解をしていたのでそのまま最後まで読んでしまいました。

でも、作者が「女性的」ではない、という主張はちょっと違うかなって。たしかに「女流」ではないかもしれないけど、こういう話を紡ぎ出すのは私の知る限りでは女の人の方が多いのだ。こういう話、っていうのはつまりセックスがアイデンティティに関わってこないような話のこと。

で、とてもよかったのだけどちょっと違和感も感じるのだ。ひとつは、ひっそりと目立たずに暮らしてきたはずの常野の人たちがだんだん集まって来つつある、というところ。それは私がそういう話の運び方を好まない、ということなのだろうと思う。

もうひとつは、それまで生きていることに肯定的な何物をも見いだせていなかった亜希子が常野の一員であることを知ってアイデンティティを獲得するように見えるところ（「黒い塔」）。それだと「かけがえのない自分」というものを永遠に見出すことができないんじゃない？とか心配してしまう。誰かの役に立つとか「大きな営み」というものを考えるとき、それは結局のところ「満足のいく仕事」をみつけたということと買わんないんじゃないの？って気がする。

そのへんが、どうも違和感。読み方が浅いのかもしれないけど。

プイグは三冊目？『蜘蛛女のキス』『赤い唇』のあとは読んでないと思うから。

いいですね、プイグ。通俗小説の手法を多用してたりするらしいけど、そもそもそこで使われているような通俗小説というのをあんまり見たことがないのでよくわからなけど。でもとても魅力的。映画の台詞が各章の冒頭に引用されているのもよい感じ。

タイトルは今風にするならやっぱり『ブエノスアイレス・アフェア』だろうな。実際そういう読み仮名が振ってあるところも本文にはあるし。でも「事件」のほうが適当かな。でも「事件」にしてしまうと「アフェア」という言葉から想像されるものが欠落してしまう気もするし。

なんて私が考えてどうする。

内容はネタバレするから書けませんけど、「いったい何が起こっているのだ？」という場面描写から始まって、その場面につながるいくつかの話の流れ、登場人物の生い立ち、というようなものがあとから語られる。その中心となってくるのは登場人物たちの・・・ネタバレになるからやめよう。

プイグはもっと読んでみたいな。でも文庫・新書系はもうないかもしれないな。

たった一日で読んでしまった。予想通りの展開。

漱石はひととおり読んだことがあるし（『鉱夫』は読んだことないけど）、二葉亭も『浮雲』と『平凡』は読んだことあるし、独歩も『武蔵野』といくつかの作品を読んだことがあるし、田山花袋の『蒲団』も読んだことがあったしという具合なんだけど、鴎外はほとんど読んだことがないし、島崎藤村はぜんぜん読んだこと無いし、石川啄木なんていくつかの短歌と名前と「悪名」くらいしか知らなかったし北村透谷は自殺したことさえ知らなかった。

というわけで、早速本屋に行き啄木・透谷・あと独歩の「文さん」の出てくる短編の載ってる本を買ってきたという次第。どれも岩波。そういえば啄木のローマ字日記も文庫に収録されていたような気がするけど見つからなかった。絶版とか品切れとか？

で、とりあえず啄木から読み始めて二十歳そこそこでこんなに書けるものなのかと感心した。なんてことはとりあえず置いといて、『盛衰史』の感想なのである。

っていうか、よかったとかじんときたとかそういうことを書いても仕方ないのかなって気がする。私の場合、だけど。そんなの当たり前だからだ。でも人様にそういう情報を提供するのはそれなりに意味のあることかもしれないけど。

これはひとつの病かもしれないけど、「謎解き」をしなくてはならないと思ったのだ。『こころ』のＫが誰であるか、というかどうしてＫなのか、という問題は私も昔から気になっていて、金之助のＫなのかな？とかいろいろ思ったりしていた。

で、ここではいくつかの状況証拠をあげてＫが誰であるかを追求し、『こころ』で漱石が隠したことを解き明かしていくのだが、それはまるで『盛衰史』にもそういう謎があって、そのためのヒントでもあるかのように思えてしまうのだ。

たとえば、「あの人」という言い方をしてあるのはなぜか、とか、年老いた藤村の前に現われるのは誰か、とか、そして年老いた藤村と若者との関係は、そのまま「先生」と「私」との関係ではないか、とか。

そんなことをひとつひとつ丁寧に読み解いていったらいいのかもしれないけど、私の手に余るというのがほんとうだ。

でももしこの続きが何か書けるようなら書いてみたいとは思うのだけど。

読み終わってから一週間くらい経つけど、その間に何人かの方とオンライン（といってもインターネットとは限らないけど）で話し合った。その人たちはまだ誰も読んでいなかったのだけど話は通じてしまうのだった。

いちばん最初書こうとしていたことはいかに謎解きをしていくか、ということだったんだけど、もちろんそれはそれでとても楽しいことなんだけど、話をするのと違って書き物だときっちりと進めていかなければならないのでなかなかうまく行かないのだった。

読み終わってすぐに、石川啄木、北村透谷、国木田独歩の本を買った。独歩は読んだことがあるけど（というか一時期愛読していた）、啄木と透谷は一度も読んだことがないのだった。

「原宿の大患」はまるで漱石のように死に損なった源一郎さんの「体験」がもとになっているのだろうけど、なぜあの病院に運ばれるのか。そしてどうしてあの人と会うのか。

晩年の藤村が出会う青年は誰なのか。もちろんそこでは「こころ」の「先生」と「私」がフラッシュバックする。

たぶん、そういう部分はとても注意深く読まなくてはならないのだろうと思うのです。

鴎外とは誰なのか。漱石とは誰なのか。二葉亭に連れられた独歩が見るのは何なのか。独歩が歩くのはどういうことなのか。

そして「感傷的」な文章の比類のない美しさはなんであるのか。もちろん美しい文章を味わうだけでもひどく「幸福」であるのだけど。「美味しい」っていってもいいかもしれない。

『官能小説家』は美しい文章で綴られた明治の部分といかにも冴えないタカハシさんの出てくる現代とが交互に出てくる、というつくりになっているけど、後者は前者に対する「批判」の機能を果たしているのだろうな、くらいにしか思っていなかったのだけど。

で、『日本文学盛衰史』を読んでいて思ったのは、『官能小説家』は漱石の『虞美人草』と『平凡』を同時に書こうとしているのではないか、ということ。『官能小説家』のいちばん最初に漱石に捧げるって書いてあったけど、同じ朝日新聞、しかも源一郎さんの朝日新聞における最初の小説でもあるし。

高橋源一郎の『日本文学盛衰史』を読んでいるうちにどうしても読みたくなってしまった石川啄木。短歌を含めて教科書でしかお目に掛かったことが無かったようなきがする。お金にだらしない天才歌人、くらいにしか思っていなかったのだけど、こんなのを書いてたんだと驚いた。

漱石の講演とかで言ってることは現代でもそのまま有効なものが多いのだけど、「時代閉塞の状況」で書かれていることは、少しだけ言葉の置き換えをすれば今でもそのまま言えてしまうようなことではないのか。

「ローマ字日記」も是非読んでみたいものだ。

これも『日本文学盛衰史』関連で読んだ。冒頭に収められている『窮死』をどうしても読みたかったのだ。『盛衰史』ではなぜか雨が雪になっていて、それがとても気になる。そのあたりのことはまた別に書きたい。

独歩の『武蔵野』は最近は読んでないけどある時期は本当に何度も読み返していた。高校生の頃だ。どういう読み方をしていたかといえば、『武蔵野』をテキストとして今現在（というかその当時）の東京から武蔵野の面影を読み取ろうという、文学的というよりも郷土史的/自然観察的フィールドワークをしていたのだ。

『武蔵野』の異なる読み方（というかまっとうな読み方）に気付くのはそれよりもずっとずっとあとのことだ。

で、独歩はここに収められた作品のほとんどを一気に書いて読み返しさえしていない、ということらしいが、おもしろいのだよね。もしかしたらおもしろいと思うことはおかしいのかもしれないけど。

もう少し読んでみたいですね、独歩は。そんなに作品は多くなかったような気がするのだけど。