大原まり子四冊目。一人の作家をこれほど立て続けに（っていうほどじゃないけどさ）読むのは、私としては珍しいこと。

しかし、どれを読んでも琴線に触れまくりっていうのはもっと珍しいかも。ほんとに、どれも私のために書かれたとしか思えないような。何物にも代え難い誤解。

話は大学を出て間もない森坂トオルが、恋人の前で交通事故に合い、三十年後の世界に飛ばされてしまう、というもの。それ以上書くとネタバレとかいろいろありそうなので書かないけど、確かにこれはＳＦだけど、どうしようもないほど文学していると思わずにはいられない。って書き方はなんかヤだな。というのも、優れた小説（に限らないけど言葉の集積したもの）はどれもこれもみんなそういう側面を持っているということなんだけど、仮にそういうエッセンスっていうか共通した何か、といったものを文学って言ってるだけの話。これは、個人的に琴線触れまくり、というのとはまた別の話。でもそういう文学って呼びたいようなものが含まれていなければ、きっと誰の琴線にも触れないんじゃないかなって思う（すれっからしの心情は別にして）。

大原まり子、あと何冊出てるんだろう？もったいないような気もするけど、読みたいときに読んでしまうのも悪くないのかもしれない。また、読み返せばいいのだし。そして、たとえばこの作品や『アルカイック・ステイツ』を読み返すということはどういうことなのか？なんて言ったりしてみたくもなっちゃうんだけど。

それがどういうことなのか知りたい人は読んでみてください。

デザイナー集団グルーヴィジョンズが装丁・挿絵などを手がけた絵本。いわゆるシンデレラの原型となるグリム童話に収録されている話。

まあ、話の方はご存じの方も多いだろうけどなんともグリムっぽいあれ。足の指を切っちゃったりかかとを削ったり。

で、挿絵？は本文とは直接関係ない。見開きの右側に本文、左にchappieというわけ。で、最後の方ではその絵にちょっとした仕掛けがあったりする。

こういう絵本は楽しいけど、子供が見ても面白くないんじゃないの？って少しだけ心配。っていうか子供向けじゃないのだろうけど。

源氏物語を読みながら、なんとなく不安に駆られて手に取った一冊。

これ、ものすごくおもしろい。こういう本を比較的若いときに手に取っていたら、結構まじめに古典に取り組んでみたりするのではないだろうか。勢い余って研究者になってしまう人だっているかもしれない。

とりあえず、古典に興味を持っている高校生は必読ですね。古典が好き、というくらいなら難しくて読めない、ということはないだろうし。

古典に対する取り組み方から始まって、実践的なところまで踏み込んでいるので、本書を片手にというか机に置いて読み進めるのもよろしいのではないかと。

でもたとえば源氏物語を、原文できちんと読んでいくことによってこれほどの解像度が得られるのか！と思うと頭がクラクラする。そこまで読むのは無理かも知れないけど、少しでも近づけたら嬉しいなと。

で、そういう読み方は現代語に訳してあるものからでもある程度可能なのだ。末摘花のところでの「松」なんて、軽く読み飛ばしちゃいましたよ、わたくしは。もちろんそれだって構わないのだろうけど、もっと解像度を上げるとそれ以上の世界が開けるのだろうなって。

でも著者はそういう解像度を上げる読み方だけを推奨しているわけではない。古典だけじゃなくて、普通の読書案内としてもものすごく役に立つんじゃないのかな。

あ、なんか肝心なことをなんにも書けてないような気がするけど、まあいいや。

形式にこだわった「都市伝説」探求の物語。と括るのは乱暴だけど。「都市伝説」というのは口裂け女とかトイレの花子さんとか人面犬といった「友人の友人の話」として都市に流布するもののことを言うらしい。それを探し求めている途中で浮かび上がってきたのが「秘密屋」。それはいったい何？

これ以上書けばネタバレになっちゃうからやめとく。

個人的評価としては７０点というところか。それは都市伝説のようなものにちっとも興味を引かれないからかもしれないし、形式へのこだわりがニヒリスティック→ロマンティックに感じられるところがあんまり好きじゃないからかもしれない。

でも、「秘密屋　白」と一緒に読めば、それはそれとしてじゅうぶんに楽しめるのだ。

こちらは「赤」の後日譚。こっちは文句なしに面白かった。主人公に「秘密屋」が接触してくるのだ。そしてそれと平行する物語で、主人公は窮地に立たされていく。

・・・何を書いてもネタバレしちゃうじゃん。だからこれ以上なんにも書けないけど、「赤」と別な作品として読んだらこっちのほうがわたくし的にはずっと面白いと思うな。趣味の問題かもしれないけど。