佐藤亜紀がどこかでこれについて書いてたんだけど、見つからない。どこで読んだんだろう？

　とにかく夏に読むにはよいということで読んでみたのだけど、ほんとにそうだった。だいたい、悪徳を積むほど幸福になり、悪徳にびびったり善意がきざしたりすると危険に陥ったり不幸になったりという破天荒さ。

　ここで言われている悪徳というのは確かに普通の意味での悪徳でもあるのだが（淫蕩、盗み、殺人、人肉食、神の冒涜、等）、ようするに人のなすことはすべて自然であり、それ以外のことはできない、それに対して道徳というものは局所的なものあるいは便宜的なものであり、それは返って自然に反することである、ということなのだろう。なんとなくニーチェとかに繋がりそうな。

　主人公ジュリエットが修道院での淫蕩を皮切りに、悪逆非道の人生を歩んで行くのだが、凄惨だったりスカトロだったりする場面も含めて妙に健康的であり、冒険譚として楽しめるのだ。ローマ法王に会って（謁見ではなかろう、あれは）地位を捨てろと言ってみたり、ナポリの名所巡りをしながら淫蕩・残虐に耽ったり、読んでいて笑ってしまう場面も少なくなかった。

　でもこれは抄訳で上下二巻、元は全六巻というから全部読んだらかなりあてられるのだろうな、という気がしなくもないけど。

　オイディプス伝説というものを全然知らなかったので読んでみた。それもなんだけど、ギリシャ悲劇の形式、というのがなかなか興味深かった。

　ライカといえば高級カメラの代名詞だが、その歴史についてはほとんど知らなかったので、なかなか興味深かった。歴史、といっても本書に書かれているのはライツ社あるいはライカの歴史に留まらない。同時代のドイツのカメラの歴史、そして日本のカメラの歴史もかなり詳しく書かれている。

　２・２６事件がライカの日本の報道で使われ始めるきっかけになったこととか、ドレスデンのカール・ツァイス財団本部工場が空爆されなかったとか（ドレスデン空爆で１３万５千人以上が死んだ──『スローターハウス５』は作者ヴォネガットのドレスデン空爆体験が元になって書かれた）。

　ライカの頂点は戦後のIIIf（３ｆ）と、それに続くＭ３で極められる。Ｍ３はあまりに精巧な構造で、追従者が現れなかったほどだという。だが、その後カメラのつくりはＭ３のようなレンジファインダーではなく、一眼レフへと移っていく。その牽引役を果たしたのが日本のメーカーだった。やがてＭ３は生産が中止され、より単純な構造のＭ４がその後を引き継いだ。

　傑作カメラＭ３が自らの首を締める結果になったとは。皮肉なものだ。