books200004
私が考えるような「戦争」というのは、やっぱり本書におけるように具体的な事例を挙げることによってしか論じることはできないのではないだろうか。抽象的な「戦争論」なんて不要だ。
こういう本は万人に読まれるべきだとはぜんぜん思わないけど、でもたとえばいきなりマクベスの引用が出てくるあたりなんて、ものすごく惹かれてしまうのだ。っていうか、そういうところを読んでしまうというか。
表題の通り、バルトがバルト自身について書いたもの。もちろんたんなる伝記のようなものではない。というよりも、伝記らしいところなんてまったくない。タイトルの付いたフラグメントの集積で、それを読んで行くうちにバルトがわかる、というようなものでもない。
巻頭はアルバムのようになっていて、写真と短いコメントから構成されている。幼少のみぎり、という写真ではどうしてもコンブレーを思い起こさずにはいられない。それが「ロマネスク」ということなのかもしれない。
バルトによる写真論。前半と後半に分かれていて、前半ではいわば一般的な写真論（もちろん「普通の」写真論ではない）が展開・破棄され、後半ではそれをまったく別なところから（私的、ということでもあるだろうけど、それとも少し違うような）回復させていこうとする。そのプロセスは感動的だ。というのは簡単だけど、そう言ってしまうと肝心な部分を取りこぼしてしまうような気もする。読んでもらえばわかると思うけど。もう一度読んでみないと。
これを読んだ後でいろいろ考えた（というよりもたんに「思った」）のだけど、「脳の限界」が箱に収められたような何物かであるといよりも、知覚され得るすべてが「世界」である、という感じなのだろう。
ヴォネガット自身が第二次大戦で経験したドレスデン空爆を題材に書かれた作品。1945年の２月に連合軍による大量の爆撃機がそれまで無傷だった都市ドレスデンを一晩で壊滅させたという事実があり（アメリカでは長い間公表されていなかったことらしい。少なくとも１３万５千人が死亡した）、その場にヴォネガットも捕虜として居合わせたという。
それを書くためにビリー・ピルグリムという、やはりドレスデンの空爆を体験する人物を作りだし、彼に不随意な時間旅行をさせながら（いきなり別な時間別な場所に飛んでしまうのだ。たとえばハネムーンのベッドからトイレに入るとそこが捕虜収容所のトイレだったりする）、その晩のドレスデンへと徐々に接近して行く。
ビリー・ピルグリムは娘の結婚式の晩トラルファマドール星人に誘拐され、動物園の見世物にされる。彼はそこでトラルファマドール星人が四次元を認識できることを知り、それが彼に独特の人生観を抱くに至らせる。四次元に生きるとはつまり時間を空間のように見渡すことができるのであり、そこでは必然的に誕生や死も空間的広がりの端としか認識されない。
つまり不随意な時間旅行者ビリー・ピルグリムはある意味ではトラルファマドール星人的な生を生きているのである。
本文中で数限りなく繰り返される「そういうものだ」とはつまり四次元空間を生きる認識、ということなのだろう。
それから、読みながら何度か『重力の虹』を連想した。第二次世界大戦とアメリカとの関係、みたいなことがそうさせたのか、あるいはたんに当時のヨーロッパが「そういうもの」だったのか、それとも小説的影響、ということなのかは、私にはよくわからない。