books200003
最初のの段落を読んでかなり脱力して続きを読もうかどうしようかと一瞬ためらったのだが、後で解説を読むと「見事にきまっている」なんて書いてあったので、ああいう書き出しもありなのかもしれない。
実質にはすでに解体してしまっている家族が映画に出演することで再び家族として振舞おうとするのだが、結果としては映画の中でさえ家族として振舞うことに失敗するでもそのことよりも、主人公が心惹かれる彫刻家の変態老人のほうに心惹かれてしまう。ゴムボートの中で眠るとか、女の尻の写真を撮ってコレクションするところか
ほかに「真夏」と「潮合い」という作品が収録されているが、転校生に対する「暴力」を取り扱った「潮合い」が個人的にはいちばん好きかも知れない。同時にいちばん読んで気持ちが楽にならない作品でもあるが。
なぜか芥川賞受賞作が二つ続いてしまった。
こういう話で蛇を何かの象徴として読むのは好きでなくて、「そういうものだ」と思って読んでしまうのだけど、でもそうして読むと感想なんてちっとも浮かばないのだ。でも最初から「薮蛇」との連想が出て来たりしてちょっと嬉しかったりする。あと、蛇の作った料理とか。
ほかに「消える」と「惜夜記」が収録されている。「惜夜記」は１９の部分からできていて、各章は関係があったり、なさそうだったりしながら繋がっていく。こういう夜は好きかも知れない。
澁澤龍彦の遺作となった小説。こんなすごい小説が５００円も出さずに手に入るのだから驚きだ。
天竺に渡ろうとした高丘親王の最後の一年を題材にしたもので、冒険小説ともいえるかもしれない。
高丘親王はよく眠り、夢を見る。そして夢とも現ともつかない場で、いろいろと不思議な体験をするのだ。
すごく感動したのだけど、感想はちっともうまく書けないです。
知覚や意識が脳のどこで行われているかを示すことをブレイン・マッピングというらしいが、本書はそれを一般の読者（つまり研究者以外の人たち）に向けて書いたものである。著者は医療ジャーナリスト、ということらしいが、具体例は豊富な図版によって脳のことをそんなによく知らなくても十分に理解可能だ。
知覚が脳のどの部分で行われているかということや、人間の脳の特異性（大脳の非対称性、前頭葉の非常な発達など）、意識のありかなどが、現在わかっている範囲であるが、一通りすべて述べられている。
でも科学的な問題を羅列するというよりも、場合によっては個人の行動や社会的行動（たとえば大量虐殺を起こしてしまう人間の脳、というように）にまで踏み込んでいるので、文科系的脳でもじゅうぶんに興味を持って読み進めることができる。また、脳に対する薬物などによる操作といったものにアレルギーを持つ人に対しても著者なりの意見を述べて理解を促している。
少し残念なのは、コラムの位置が本文の読解を阻害するような位置に置かれていたり、図の位置が本文とうまくシンクロしていない、ということだ。これは横書きの本を縦書きに直す作業がうまくいっていないということなのかもしれない。
＊＊さんが＊番（だったかな？）で書いてた本。「夫婦善哉」っていう題名はなんとなく知っていたけど、内容はおろか作者すら知らなかった。「夫婦善哉」っていう小説は妻子ある男が芸者と駆け落ちしてっていう話で、なんだかある程度歳を取った人が書いたのかなと思うと、作者は1913年に生まれて1947年にはもう死んでしまうという駆け足のような人生で、小説も細部を丹念に書いていくというよりもなんだか駆け足の感じがして、その駆け足度合いが李良枝の「ナビ・タリョン」を少しだけ思い出させたりして。
市井の人たちを描いた小説、って言えなくもないけど、いわゆる市井の人たちを描きましたみたいな感じとは少し違うかもしれない。もしかしたら違うのかもしれないけど、見下ろしているわけでも感情移入しているわけでもなく、ただ市井のことを書いていますみたいなそういう感じ。
最後に「可能性の文学」という文学について語った随筆（論文ではないだろう）が収録されていて、坂田三吉という棋士の一世一代の対局における「阿呆な将棋」を取り上げて、定跡への挑戦、といことを述べている、というかそこから文壇における志賀直哉を中心とした小説における「定跡」を批判しているのである。というか、「日本の文壇における定跡」を批判しているのだ。その是非はともかくとして（なにしろ何しろ半世紀以上前の話である。だが今でも有効な部分は確かにある）、健全さというか清々しさ、というのが前編にあふれていて、読んでいてとても気持ちがよい。
もう少し生きていたら、もっと今に知られた作家になったいたかもしれない。
あと、個人的には「女心めいた懐かしさ」というのがヒット（p.220）。
ロヨラという名前を初めて認識したのはバルトの著書に『サド・フーリエ・ロヨラ』というのがあって、サドとフーリエは名前くらいは知っていたが、ロヨラというなんとなく不思議な響きのある名前は、聞いたことさえなかったのである。あるいは聞いたことがあっても気にも留めなかったのだろう。
ということを書けば私がいかに西洋史について無知であるかが判ろうというものである。ロヨラはあのイエズス会の「創始者」であり、イエズス会といえば小学生でも知っている（今の小学生は習ってないかもしれないけど）フランシスコ・ザビエルである。ロヨラとザビエルが同時代の人であるばかりか、パリで同じ部屋に住んで学んでいたなんて！ロヨラのほうがだいぶ年上で、各地を巡礼して回っているうちに学問の基礎が不充分であることに気付いてパリにやってきたのは三十代も後半のことだった。
ロヨラがイエズス会の創始者であることを知ったのはエーコの『フーコーの振り子』を読んでいたときの事だったりする。つまりバルトとエーコの双方からロヨラにアプローチしてきたとも言えるが、バルトとエーコは面識があったことを考えると、なにか奇妙な感じがする。ただしロヨラという人物が別々のテキストに登場してきたからといって何も不思議なことはない（あたりまえだ）。私が言っているのはたんに読書の体験として、ということさ。
書かれている宗教的事跡はなかなか興味深いし、それとは別に当時のヨーロッパの状況が垣間見えるところも面白かったけど、なによりもロヨラが行動の人であるというところが妙に納得がいくのだった。
佐藤亜紀の書評集。結構トゲトゲしているが、こういうのは好き。「日本人は」とかおっ被せるお節介なおじさんの書くようなもの（そういうのは大嫌いだが）とかなり異なる位相にあるような気がする。