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ご存知山田詠美のデビュー作。
巻末の竹田青嗣の解説以上のことは書けそうもなくて（あたりまえだけど）、印象だけを書く、ということになってしまうけど。
ピュアな恋愛小説、というのが第一印象。当時はエロティックな描写云々とか、黒人兵との情事、みたいな、そういう言われ方をしていたのかもしれないけど（そのとおりだろうけど）、もっとなんていうか、かわいい。
いまとなってはある種の衝撃は失われているけど、それは山田詠美的なものが世の中のかなりの部分を占めていて、意識的であれ無意識的であれ、わたしたちはそれに接しているから、ということになるのかもしれない。もしそうであるなら、『ベッドタイムアイズ』はすでに古典であるのだろう。それはとんでもなくすごいことである。
なんてわたしが言ってどうする。
「こいつが一番よく君を覚えていたよ。」と、人差指だけ伸ばした左手の握り拳を、いきなり女の目の前に突きつけた。
というところまで読んだとき、なんて助兵衛なオヤジなんだ！などと思ってしまったのだが、たぶんそういうのを半分くらい括弧に入れて読まないとだめかもしれない。
面白いし、作者の代表作のひとつであることもよくわかるけど、妻子を東京に残して女のいる温泉宿に長逗留するってそのあたりから許せなかったりする、のだが、それも括弧に入れなければとてもじゃないけど読んでられない、というのもまた本当だ。
そういう生活のいやらしさを主人公、あるいは作者がよくわかっているあたりがまたいやらしくて、でもそういう部分が魅力でもあったりするのだ。
主人公の島村みたいなやつがいたら許せないけど、小説を書く、ということは「許せないやつ」に身を落とすことであるかもしれないので、妙に納得してしまう部分もあったりするのだった。
まさに小説の古典。ちょっとだけ「妊娠小説」してる部分もあるけどそれはそれとして。
もちろんいまとなってはあらゆるパターンが出尽くしているから少年の憧れの女性の恋人が実は自分の父親であった、なんていうのは珍しくも何ともないだろうし、この当時だってあるいは珍しくもなかったのかもしれない（でもなにしろこの小説はツルゲーネフの自伝的小説ということだから）。でももちろんそんなことが問題なのではなくて、少年の恋するジナイーダの恋とそれに伴う変貌、少年に気まぐれな愛情しか示さない若くして死んだ父親とかの、古典としての存在感とでもいうべきもの──新しさよりも起源をそこに見出してしまうようなもの──に、魅力を感じてしまうのであった。
『ピーター・パン』を読んだことがありますか？ディズニーの絵本ではなくて。私は読んだことがありませんでした。実ははっきりとした筋書きさえ知らなかったのです。
解説によると『ピーター・パン』には三つのバージョンがあるそうで、岩波少年文庫の『ピーター・パン』は最終バージョンの『ピーター・パンとウエンディー』を訳したものだそうです（この版ではピーターの住処がケンジントン・パークであることははっきりとは述べられていません）。
面白いのは、ネバーランドでの冒険がかなり血みどろなものであるという点です。実際そこでは殺し合いが行われたりするのです（だいたい、ティンカー・ベルの嫉妬でウエンディーさえ命を落としそうになるのです）。子供たちだって、海賊をやっつける＝殺すのです。
そしてジェイムズ・フックは素晴らしい教育を受け、学生時代に叩きこまれた「行儀のよさ」に束縛されている人間なのです。最後の言葉は「行儀が悪いぞ」なのです。あるときはとてつもなく残忍で、あるときは孤独にさいなまれているのです。なんとも魅力的な人物ではありませんか。
ピーターは、無邪気で、忘れっぽくて、それゆえしばしば残酷です。もうずっと前に大人になってしまった私にははっきりしたことは言えないのですが、子供でいるということは、きっとそいういうことなのかもしれません。そしてもちろん、子供はそんなことを考えたりはしないのです。
物語は、ウエンディーが帰ってきて大人になって、その娘のジェインがネバーランドに行き・・・と子供が子供である限りずっと続くと結んでいますが、その一方で、ウエンディーのお母さんはとっくに死んで忘れ去られて、お父さんはすっかり年をとって一階の家に住むようになったとか、そんなこともさらりと書かれていて、そういうところにぐっときてしまったりするのです。