books199912
いったい『フーコーの振り子』について何を語ることができるだろう？上下合わせて千ページを超える大著を前にして、途方に暮れるばかりだ。
フーコーの振り子の実験はもちろん知っていたが（専門分野と関係があるので）、それはもちろん地球物理学的な成果としてである。まさかこんな使われ方をしているとは！
少々飛躍するが、エーコはロラン・バルトに関連して次のようなことを述べている。
テクストの無限性に関しては二種の態度があります。聖アウグスティヌスのそれとカバラ学者たちのそれです。
カバラ学者たちは、トーラーの文学が無限に組み合わさって、絶えず新しい異本を、したがって無限の解釈を生じうることを知っていました。私にはバルトのテクスト理論の中にこういう類のことが皆目見当たりません。聖アウグスティヌスは知っていたのです──聖なるテクストは無限である（聖ヒエロニムスの言葉を援用すれば《意味ノ無限ノ森》[infinita sensuum sylva]である）が、人は常にそれを反証の規則に付することにより、人がそれをどれほど強力な解釈学的暴力に服従させようと試みても、コンテクストが読むのを許さないものを排除しようとすることができるのだということを。ある解釈が妥当であるか、また、それが最良のものであるかどうかを言うのは不可能ですが、そのテクストがそれ固有のコンテクスト性と両立不能な解釈を拒むかどうかを言うことは可能です。
（『バルトの師匠芸』谷口勇訳、ユリイカ1999年6月号）
エーコはカバラ的なテクストの可能性に従いつつそれを批判し（それはいわゆるテクスト理論への批判でもある、のかな？）、そして返す刃（なのかな？）で「作者」をも殺すのだ（作者というのはシニフィアンなのかな？）。
ある人に教えてもらった本。紋章上絵師（作者の職業でもある）をはじめとして、染み抜き、歯科技工士、などの職人を登場人物にした短編集。
渋いけどしっとりと、そしてきっちりと作りこまれていて、ほろりとさせたり、苦い思いにさせたり。世の中うまく行かないね。こんな感じで人生変わっちゃったりするんだね。なんだか儚いね。みたいなことを読んでいて思った。
丁寧な作りが素晴らしいなと、それがいちばんかもしれない。
自殺を考えたり試みたりしない人がどのくらいいるのか知らないが、そういう人にこそ読んでもらいたいかもしれない。一日に数千回くらい「死にたい」を繰り返した人たちなら（私もその一員だが）、よく知っている「風景」に出会えることと思う。
自殺の具体例についての考察は秀逸で、私の知っている限りでは（新聞やテレビで見た、という程度だが）これ以上の考察・分析はなされていないのではないかと思う。
やっぱり自殺を考えたことのある人にも読んで欲しいな。
面白かったけど、量が少ないのでちょっと物足りなかった。その代わり、各短編で取り上げられている曲に関連するディスク情報と、山下洋輔による長大な解説が付されている。それだけで小説にほぼ匹敵するボリュームだ。
収められた１２の短編は全部ジャズに関連したもので、さすがというか。うーむ、でもあんまり書くことがないな。でもジャズをぜんぜん聴いたことのない人は、もしかしたらよくわからないのかな？だとしたら、いちばん気に入った短編に関連する曲をぜひ聴いてみて欲しいものだと思う。