books199910
×でラテンアメリカ小説が話題になったのと、あと××さんのYONDAへの野望というのが頭にあって、つい買ってしまった本。
実はガルシア＝マルケスを読むのは初めてで、最近『百年の孤独』も新訳で出たからそっちも読んでみたい、などと思ったりもするのだった。
実は読んでいて名前がたくさん出てきてどれが誰だかよくわからなくなってしまったり(^_^;)、サンティアゴ・ナサールが殺された後の検死解剖の場面で気持ち悪くなってしまったりで大変だったりしたのだが、そのナサールが殺される場面がいちばん最後に配されているのだが、なんというかそれがとても美しいのだった。
多和田葉子は好きな割にあんまり読んでない。その理由はあまり文庫になっていない、ということによるのだろうと思う。
今日の新聞にバルトの『零度のエクリチュール』の文庫版の広告が出ていた。わたしはすでにみすずからでているやつを買ってしまっているのだが、きっと文庫も買うのだろう。文庫のほうが読みやすいし。
で、『文字移植』なんだけど、すごく面白いです。「わたし」がカナリヤ諸島のある島でドイツ語の小説を日本語に逐語訳していく、というのが「話のすじ」なのかもしれないけど、実は聖ゲオルクと退治されるドラゴンとドラゴンから救出されるお姫様の話で、「わたし」はお姫様またはドラゴンで、それから周囲に立ち現れる聖ゲオルクたち・・・。うーむ、うまく書けないけど、そういうこと。「・・・に対する問題意識」とか、「・・・に対する違和感」とか、そういう書き方はしたくない。
「解説」はいただけない。
さあ、もうそろそろいいだろう。
島田雅彦や高橋源一郎が、私たちの「世代」の文学的代弁者である、という思い込みを捨てよう。
私たちには、多和田葉子がいるのだから。
なんてことを最後に書いているが、まさにここで馬脚を現している。わたしが高橋源一郎のファンだからなんかむかつく、というのはもちろんあるけど（そう思うことは少しずれてしまっているのだけど）、このように言い放ってしまう人たちに対してこそ、わたしは「私たちには、多和田葉子がいる」って言いたいと思うのだ。なんか違うような気もするけど。
すばらしく面白かったけど、いかにわたしが不勉強であるか、というようなことを感じずにはいられなかった。
セバスチャン・ナイトという天才的作家の架空の伝記、という体裁で、書いているのはその異母兄弟、という設定だ。セバスチャン・ナイトは英国人の母親を持つロシア人で、革命後イギリスに移住、三十六歳で死去、ナボコフと同じく１８９９年の生まれ、ということになっている。
「ナイト」とはKnightであり、チェスの「ナイト」や「騎士＝ドン・キホーテ」を連想させる。前者は実際そのように使われている個所を見出すことができるが、後者はどうなんだろうか？『ナボコフのドン・キホーテ講義』なんて本もあるらしいので、間違いではないかもしれない。
ナボコフはボルヘスと同じく今年で生誕百年なのだが、今現在入手が困難なものが多いのでこれを機会にもう少し何とかして欲しいと思う。
しかし、先日読んだ『ある女のグリンプス』にしても『文字移植』にしても「自国語」と他国語のあいだ、みたいなことが書かれていたけど、ナボコフの場合はそれのもっとも深刻な状況、ということができるだろう、なんて書くこと自体がおそろしく無神経なことに違いないだろうけど。そういえばクンデラもフランス語で書いていたはずだ。
こういう問題はきっちりと考えてみたらよさそうだが、どうもわたしの手には負えそうもないのだった。
××さんが×で書いてた本。タイトルが妙に気になって、読んでみることにしたのだった。
表紙や本文のイラストを書いているのはしりあがり寿だけど、表紙のイラストにかんしては黒いインクのところが盛り上がっていて、触るとでこぼこしていていい感じだ。これだけで得した気分だ。
まあ、エッセイ集なのだが、面白いけど「ああ、これ知ってる」という部分も多かった。それはだめだ、というようなことではなくて、きっとある時期の空気を著者とわたしが共有していた、ということなのだろうと思う。それだからこそ、ある種の気恥ずかしさを感じないでもない。まあそれはそれで仕方がないのだけど。
たぶん、本書のような「シュールさ」（シュール、という言葉にも違和感を感じてしまうのは、この言葉自体が十分に流通していない、ということなのだろうか？）というものにはある人たちはとてもよく慣れ親しんでいて、だから「ただ犬を見る眼付き」という＜世界＞に対する見かた、というのもよく理解できる。なんか、バルトの『第三の意味』を思い出してしまった。
こないだ読んだ『大人のための残酷童話』が面白くて、先日買ってしまった本。よいです。倉橋由美子的エロティシズム、というのがあるような気がするけど、それはセックス大好きオヤジ的なそれとはかなり違ったものだ。それは（こんなことを書いたら怒られそうだけど）やっぱり「少女漫画的」だ。現実の「性」に怖じ気付かない少女たちを描いたそれよりも、妄想の世界に遊ぶ少女たちの「少女漫画」。そういったものは、たとえば佐藤亜紀にも引き継がれていると思うし、やおい的世界にも繋がっているのだろうと思う。
わたしはこういうエロティシズムは大好きだ。
それから、ユーモアというか冗談というか、とにかくその辺の感覚がなんかすごく好きなのだ。
鯰絵に関連して、以前×××さんにすすめていただいた本。以前にもちょっと書いたけど、「江戸時代」というよりも１９世紀の江戸という都市という感じがよくわかったような気がした。たとえば時代劇に出てくる括弧付きの「老中」とかではなくて、当時の政府高官としての「老中」というような。
にしても安政の江戸で三味線が大流行したってのは、本書でも触れられていたけど６０年代の「エレキブーム」とオーバーラップするところがあってなんか面白かった。「江戸＝東京」ってのは案外ずっと変わっていないのではないかって気がしなくもない。
鯰絵はその機能についてももちろん興味深いのだけど、やっぱりそれ自体が面白いのであった。にしてもそれらすべてがアンダーグラウンドの出版物であった、というのは確かにそうでなくてはならないけど、それはなんだかとてつもないことのような気もするのだ。
リアルな小説。もちろんほとんどＳＦ的な設定がなされているが、そういうことではなくて。三十代半ばのリアリズム、ということかもしれない。「ハードボイルド・ワンダーランド」と「世界の終わり」の二つのパートが交互に、しかも微妙に交錯しながら展開して行く。「ハードボイルド・ワンダーランド」のほうが世界としてはすきだが、それはきっと「世界の終わり」が極度に閉じられた世界だからだろう。
いちばん好きなのは、「ハードボイルド・ワンダーランド」の「私」の「最後」の二日間のリアルさと鮮やかさだ。わたしたちはそいういう時間を持たないかもしれないが、でもとても身近で切実で二度と経験しない、思い出すことさえ物理的にできないかもしれないそういう時間のいとおしさ、というのは皮膚感覚として（暑いとか寒いとかみたいな）わかるのではないか。事実に直面しながらの感傷、といってもいいかもしれない。