books199905
ポーは子供の頃に子供向けの翻訳で読んだことがあって、そのときは「アッシャー家の崩壊」などがとても印象に残っていたのです。
で、今回はポーの「メールストロムの旋渦」をもう一度読んでみたくて岩波と新潮見たら、新潮のほうにしか収録されていなかったのでこちらを買いました。あ、でもどうして読んでみたくなったんだっけ？忘れてしまった(^_^;)。
収録されているのは「黒猫」「アッシャー家の崩壊」「ウィリアム・ウィルスン」「メールストロムの旋渦」「黄金虫」で、たぶん黄金虫以外はかつて読んだことがあったのでした。ただ、「ウィリアム・ウィルスン」はほとんど完全に忘れてしまっていました。
で、読み返してみて思ったのは、話のあらすじは覚えているのに、なんというかとても恐いのでした。書かれている内容が恐いのはその通りですが、なんというか言葉が恐いのです。翻訳だから、ということもあるのかもしれませんけど、巻末の解説には「アッシャー家の崩壊」の冒頭の部分と最後の部分が原文で載っていたのですが、やっぱり恐ろしいのです（まあ、理解は不完全ではあるのですが）。
自分のまわりを眺めたときのあの、畏懼（いく）と、恐怖と、嘆美との感じを、私は決して忘れることはありますまい。船は円周の広々とした、深さも巨大な、漏斗の内側の表面に、まるで魔法にでもかかったように、なかほどにかかっているように見え、その漏斗のまったくなめらかな面は、目が眩むほどぐるぐるまわっていなかったなら、そしてまた、満月の光を反射して閃くもの凄い輝きを発していなかったら、黒檀とも見まがうほどでした。そして月の光は、さっきお話ししました雲のあいだの丸い切れ目から、黒い水の壁に沿うて漲りあるれる金色の輝きとなって流れ出し、ずっと下の深淵のいちばん深い奥底までも射しているのです。
これは「メールストロムの旋渦」の一節ですが、とても恐いっす(^_^;)。もちろんいまではこんないいかたは流行りませんが、なんつーか、詩人の考えることはちょっと違うのだな、と思ったのでした。
でも、ポーって人はちょっとロリコンなのかもしれないです。自分よりも十歳くらい年下の１３歳の女の子と結婚したってのは、まあ１９世紀のことだから、と納得できちゃったりしますが、その女の子と知り合ったのがその子が７歳のときだった、ということになると、う〜む(^_^;)、などと思ってしまうのでした(^_^;)。
イタリアの作家イタロ・カルヴィーノの遺作となった文学評論。ハーバード大学での年間六回の講義のためのメモあるいは草稿をまとめたもので、「軽さ」「速さ」「正確さ」「視覚性」「多様性」の五つの章からなる。第六回目は「一貫性」というタイトルだけで中身は書かれてはいない。
カルヴィーノはこの五つの章を書き終えて渡米する直前に亡くなった。こんなことをいうべきではないのかもしれないが、なんとも心ひかれる話ではある。先日「白水社の本棚」というＰＲ紙にロラン・バルトに関するエッセイ[この文章は白水社ホームページの『出版ダイジェスト』４・５月号で読むことができる。]が載っているのを読んだときにもそう思った。
フランスの批評家バルトは一九八〇年の春に交通事故がもとで亡くなった。そのとき彼のアパートの仕事机には、ひとつの原稿がひろげられたままになっていた。原稿はほぼ完成しており、タイプライターで一ページめの清書が終えられたところであった。
それに続いて、「『人はつねに愛するものを語りそこなう』という悲しい題名を付けられたこの遺稿は、スタンダールの『イタリア旅日記』を論じたものだった」と語られる。この文章を書いた石川美子という人だがどんな人だかはまるでしらない。でも、この一文が伝えるバルトはとても魅力的なのだった。そして、次のように結ばれる。
原稿を終え、清書をはじめたとき、彼はふと昼食会の約束を思い出した。いそいで部屋を出ながら、彼は考えていたのかもしれない。帰ってきたら、この原稿の清書を終えたら、いよいよ新たな作品を書き始めることにしよう、と。しかし、彼がこの部屋にもどってくることはなかったのである。
これを書きながら、また別な魅力的な死、というのを思い出した。それは新ウイーン学派のひとり、アルバン・ベルクの場合で、彼はその最晩年に二楽章からなる美しいヴァイオリン協奏曲を書いているのだが、それには「ある天使の思い出に」という言葉が添えられている。彼の建築家の友人の、十八歳で亡くなった娘（母親はグスタフ・マーラーの未亡人）に捧げられている。しかしそれを書き終えたその年のクリスマス・イヴにベルク自身もこの世を去ってしまうのだった。自身の死を予見したかのようなヴァイオリン協奏曲──。
大きく話が逸れてしまった。
カルヴィーノのこの本は、そのいちばんはじめの章で取り上げられている「軽さ」で満たされている。決して重苦しくならずに、でも、「重さ」が軽んじられているわけではない。
この点で忘れてならないことは、あたかも重さを持たない原子によって世界が構成されているという考え方に我々が打たれるのは、事物の重さを我々が経験しているからだということです。同様に、重さを備えた言葉を味わうことができなければ、言葉の軽やかさを味わうこともできないでしょう。
それにしても、読んで心が洗われるような気持ちになる文学評論、というのは希有でないかと思う。
何を書いたらいいのかよくわからないのだけど、きっと、「書く」ということについての小説だと私が読んでしまったことについて書くべきなのだと思う。でも、それはいますぐには書けません。
それから、×××での××さんの感想は、実はとても参考になったのでした。たとえば「観覧車＝スプートニク＝・・・」みたいな部分は、どういうわけだか気がつかなかったりしていたのです。
あと、すみれは「ぼく」の「ドッペルゲンガー」なのではないかな、やっぱり。すみれが小説家志望である、というのと、「ぼく」が教師である、ということについてはよく考える必要があるかもしれない。
それから、××さんのおっしゃる「あの本を知るにはあの本を生きるしかない」、というのは確かにその通りだと思うのですが、
とは言え、そのような本当ならいらない言葉でああだこうだとやっているのが×××と言うこともあり、この辺りに、決して巫山戯ているわけではなく、ジレンマを感じると言うこともあります。
とおっしゃっていることは、つまり「あの本を生きる」ということではないのでしょうか。そう、たぶん書くことと生きること、みたいなことも書かれていると思うのです。
にしても、村上春樹ってなんかどんくさいなあ。でもそういう部分については、私とよく似ていると思う。
なんつーか、実存主義小説だなあ。キツネが言ったこと。
「うん、そうだとも。おれの目から見ると、あんたは、まだ、いまじゃ、ほかの十万もの男の子と、別に変わりない男の子なのさ。だから、おれは、あんたがいなくなったっていいんだ。あんたもやっぱり、おれがいなくたっていいんだ。あんたの目から見ると、おれは、十万ものキツネとおんなじなんだ。だけど、あんたが、おれを飼いならすと、おれたちは、もう、おたがいに、はなれちゃいられなくなるよ。あんたは、おれにとって、この世でたったひとりのひとになるし、おれは、あんたにとって、かけがえのないものになるんだよ・・・」
でも、「訳者あとがき」で異常人って書かれちゃったサン＝テグジュペリって・・・(^_^;)
ホフマンスタール、という人のことはぜんぜん知らなかったのですが、巻末の解説によればリヒャルト・シュトラウスのオペラ『エレクトラ』や『薔薇の騎士』のを書いた人なのだそうです。残念ながらどちらのオペラも見たことがないのでどんなものかはよくわからないのですが、好事家によればなかなかよいものだそうです。でもそれよりもう少し後のベルクのオペラがなかなか陰鬱なことを考えると、少なくともベルディのオペラのようでないことは見当が付きます。
そんな名前も知らない（これは恥ずべきことかもしれないのですが）作家の小説を読んでみようと思ったのは、高橋源一郎（また、なのですが）の『退屈な読書』になかなか興味深い形で紹介されていたからです。
まず、『さようなら、ギャングたち』と同時に刊行された、ということ。しかし、講談社学芸文庫といえばほとんど草葉の影の純文学の宝庫、といえると思うのですが、そこに『ギャング』が収録されてしまうというのはなかなか複雑なものがあります。
それからもうひとつの理由ですが、まずは問題の箇所を引用してみましょう。
『チャンドス卿の手紙』は翻訳にして僅か二十頁ばかりの小品で、日付は千六百三年八月二十二日、若くして傑作をものしたチャンドス卿が二十六歳で文学との絶縁を宣言するに至った理由をフランシス・ベイコンに書き送ったという体裁になっている。
『手紙』にチャンドス卿が書いているのは二つのことである。
その一つは、彼が「書けなくなった直接の理由」。
そして、もう一つは、その「直接の理由」の中に潜んでいる「真の理由」。
（「三十年ぶりの「手紙」）
高橋源一郎はこれに続けて「そしてそのどちらの「理由」もぼくには親しいものであり、ほんとうにまるで自分が書いた手紙かと思えたのだ。」と書いています。
つまりわたしはその「理由」が知りたくて『チャンドス卿の手紙』を読んだのでした。
で、その「理由」とは、言葉が何かを正しく表現できるのだろうか、ということと、感じるところのものを書き表そうとする言葉は、自分の知っていることばではない、というようなものなのでした。
「言葉への懐疑」みたいな言い方をするのはまるで違っていますが、でも言葉への一種の不信、ということなのかもしれません。だから、この小説が現代小説の始まり、というようなことが言われるのでしょう。
でも、このあたりのことを語るには、あまりに勉強不足です。
シェイクスピアは凄いです。
オフェーリアの気が狂ってしまうあたりは、すごくきれいで、泣いてしまいます。ずっと前にこの場面を借りて小説を書いたことがありましたけど、やっぱり冒涜になってしまったかもしれないです。
でも、冒涜されてしまうほどやわなテキストではないかもしれません。
いつか、戯曲を書いてみたいです。
××のいうとおり、赤坂真理は天才だと思う。
以前に『アルジャーノン』と似てるんじゃないかって書いたけど、ちょっと違うかもしれない。でも、このことを考えるにはもう少し時間的な距離を置かないとだめかもしれない。
アメリカは謎だ。
とか言いたくなる。
バブル弾けて破滅しちゃったフィッツジェラルドが文学じゃない、とは言えないだろう。
羨ましいのは自分を田舎者と言える人達。だって、たとえ故郷に誰もいなくなっても都会で傷ついたよ悲しいよ誰か慰めてよって思えばひとり故郷に帰って祖先の墓地の前で泣くこともできるから。都会で生まれちゃった人は、そういう場所をあらかじめ失っている。「わたしは田舎者さ」と開き直ることが封じられているのだ。漱石はそういうことを書いていたりするんだろうなって気がする（漱石の場合はさらに深刻だけど）。