books199904
・・・とはいっても、書評について何か書こうとしても、何も書けない、というか、「うんうん、そのとおりだよね」とか、「(;_;)」とか、そんなリアクションを読んでいるあいだ中していたのだが、とにかく、高橋源一郎と意見が食い違うとすごく悲しいし（というよりもほとんど不安になる）、意見が合えばわけもなく嬉しいのである。
それはつまり、私が高橋源一郎に惚れているからだろう(*^_^*)
・・・じゃなくて（こないだサイン会に行ったくせに）、・・・こないだサイン会に行ったときに、はじめて生源ちゃんを見たのだが、思っていたよりもずっとがっちりした体格で、骨太な印象を受けたのだった。そうか、このくらいじゃないとあれだけのものは書けないよな・・・なんて思いながら、私は彼の漱石先生が『長谷川くんと余』で長谷川辰之介（二葉亭四迷）のことを書いていた印象と、源ちゃんのそれがひどく似通って見えたのであった。
と思ったら、そのものずばりが収録されていた。でもぜんぜん驚かなかった。そうでなければならない、と思ったから。
・・・でも源ちゃんの書評を読むと、一応アマチュアだけど小説を書いている身としては、身につまされることも多い。やっぱり、もっとたくさん本を読みたいなあ。まあ、そんなに読めないとは思うのだけど。
毎回毎回同じことになってしまうのですが、原田宗典はほんとうに繊細だなって思いました。でも繊細繊細ってくり返しても仕方がないので、ちょっと考えてみました。
そのひとつが、ほのぼのに落ち着きそうになるときにそれを迂回する、ということです。
表題作の「しょうがない人」は、主人公の父親が原付きの無免許運転で警察につかまって、その身元引き受けをしに行く、という話なのですが、電車に乗って水道橋の交番に向かう途中で、主人公が高校生のころにちょうど逆の立場に立たされたことを思い出すのです。
母親とケンカをして、家を飛び出した主人公がその夜のうちに保護されて、その身元引き受けに父親が来た、ということを思い出すのです。
私はなんとなくそのあとでほのぼの、というように展開するのかなと思いながら読んでいたりするのですが、主人公は次のように思うのでした。
十七歳の時の一件を思い出したせいで、ぼくの気持ちはかえって塞いでしまいました。ちょうど、十年前のことです。その間にぼくら父子の関係はこんなにも変わってしまったのかと思うと、胸の中が湿り気を帯び始め、力の入れ所を失ってだらりと撓むようでした。
うまくいえないのですが、こういうところでぐっときてしまうのです。
次は『あ・だ・る・と』ですが、やっぱり高橋源一郎は文学について語りまくってしまっているのですが（というか、ＡＶと同時に語ってしまっているのですが）、××さんの予告されていた最後まで読み終わったあとで、どうしたらよいのかわからなくてそのまま固まってしまったのでした。
なかなかお忙しいとは思うのですが、×××さんにもぜひ読んで欲しいと思いました。
もっと詳しくは、ちょっと今日は書けそうもありません。でもとにかく、××の××達も私もいつかどこかで「同窓会」を開けたらな、と思うのです。もちろん××さんも×××さんも。その同窓会の名前は書店で『あ・だ・る・と』を手に取ってご覧くださいませm(__)m＞×××さん
そうですか、××さんのベスト５に入りますか。ああでもわかるような気がします。
というわけで、ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』（早川書房、小尾芙佐訳）。私はハードカバーで買ったのですが、文庫は存在するのでしょうか？というか、文庫をさんざん探したのですがとうとう見つからなくて、某所でたまたま見つけたのでハードカバーを購入したのでした。[注：どうやら文庫は存在しないらしいです]
××さんの「フランケンシュタイン」というのを見て、ああ、なるほど、と思いました。でも私は「グレイト・ギャツビー」かなって思ったのでした。でも実は『グレイト・ギャツビー』は読んだことがないので確かめてみないとな、と思ったのでした。
話が春から始まって、晩秋で終わる、というのが何とも言えなくて。チャーリーとアルジャーノンが脱走を企てる、あそこがたぶんピークなのですね。
もうなんというか、全編切なくてうるうるしちゃって、なんども泣きそうになりながら読んでいたのですが、とうとう最後の二行で泣いてしまいました。なんつーか、もう、どうしようもないの。泣けて気持ちいい、とか、そういう自分を外から見てるとかそーゆーんじゃなくて、どうしようもなくて泣けちゃう。こういうのって、電車の中じゃ読めないや。でも実は電車の中でうるうるしたことは何度もあるのだけど(^_^;)。
いつかこういう小説が書けたらいいなって思ったけど、そんなふうに思った人はたくさんいるに違いない。もし私が高校の国語の先生だったら、夏休みとかにこういうのを生徒に読ませたいな（逆に嫌われちゃうかな？）。
でもこんなすごいのが書けたら、それでもいいやって思う。普通はどんなに頑張ったって、こんなの書けないから。
ずっと昔××で読んだとてもとても好きだった小説があったのだけど、あれはこれとも関係があったんだってわかった。
ここ数日本ばっかり読んでるけど、こういう瞬間に「作家になりたい」って思う。もちろんじっさいにはそうでもないのだろうけど、小説を書いて、小説を読んで、っていうのばかりしていてもいいのが作家だって思うから。
とはいえ、ボルヘスについていったい何をいい得るでしょうか。短編集という体裁を取っているし事実そうなのですが、互いに連関のありそうな人名や事象がちりばめられていて、一度くらい読んだのではそういうところまでじゅうぶんに読み切れません。いえ、何度読んでも読み切れないと思うのですが。
ボルヘスはもっといろいろ読みたいのですが、どのくらい翻訳が出ているのかもよくわかりません。こんど紀伊国屋ブックｗｅｂででも調べてみることにします。
太平洋のとある小島に現地人が「魔物」と呼ぶ得体の知れないなにものかが生息していた。それをチェコ人の商船の船長ヴァン・トフが耳にして、ある晩酔いにまかせて出掛けていき、それが知能を持った山椒魚であることを知る。ヴァン・トフは彼らと取り引きをすることにした。それは山椒魚に真珠を取らせて、そのかわりに彼らが水中で生活するのに必要な物資を提供するというものだった。その話をやはりチェコ人の実業家ボンディに持ち掛けた・・・。
さて、それ以上語るのはいわゆるネタバレになってしまうようなのでやめときます。そのかりもう少し別のことについて書くことにします。
これを読んでいて気がついたのは、クンデラもチェコの人だったのだっけ、ということでした。チェコは1620年から1918年までの約三百年間を他国に隷属してきたのだけれど、第一次世界大戦でオーストリアが敗れたのをきっかけに、スロバキアと組んでチェコスロバキア共和国を樹立したのでした。
でもこのチェコスロバキア共和国はたった二十年しか続かなくて、1938年にはほとんど実質的な独立を失い、翌1939年にはナチス・ドイツに占領されてしまったのでした。
そして戦後はご存じのように旧ソ連傘下の共産主義国家となり、1968年のプラハの春を経て、1989年には共産主義体制が崩壊し、民主国家となったのでした。しかし1993年にはスロバキアが独立し、チェコとスロバキアの二国となって現在に至っているのです。
で、なんでもチェコもスロバキアももともとは同じ民族なのに、それぞれの地域が別の国の支配を受けたので微妙にことなる風土ができあがってしまった、ということらしいです。
さて、カレル・チャペックは1898年に生まれ、1938年に死亡しています。つまり、チェコが独立した国家であり、とても繁栄していた時代に活躍したのです。『山椒魚戦争』が書かれたのは1936年で、すでにナチス・ドイツとヒットラーが隆盛を極めていた時代なのですが、その中でナチス・ドイツやヒットラーが揶揄されているのです。その意味では「抵抗の文学」とも言えるのかもしれません。
『山椒魚戦争』を読んで驚いたのは、とても「現代的」だということでした。ずっとあとに書かれたクンデラの『存在の耐えられない軽さ』の持つなんともいえない前近代性は、いったいなんなのだろうか、と思ったのでした。
チャペックが活躍した時代のチェコというのは開かれた文化国家で、たぶんそういう状態を「現代」というのではないか、と思います。私達は『山椒魚戦争』を（ナチス・ドイツの圧力を考慮しなければ）ある種の透明性をもって受け入れることができるはずで、それは「現代」を共有しているからだろうと思います。
『存在の耐えられない軽さ』におけるなんともいえない前近代性、というのは以××さんがおっしゃっていたように、クンデラのチェコが前近代的であった、ということなのでしょう。そういう前近代的なチェコにはプラハはあっても「プラハ」はなかった。つまり、プラハという街は確かに存在していたけど、「プラハ」という都市は存在していなかったのではないか。
たぶん、内部に「他社」を持つのが都市であって、チャペックの「プラハ」にはそれがあったけど、クンデラのプラハにはそれがなかった（あるいは故意に隠蔽されていた）。そのことがかえってクンデラのプラハを私たちから他社たらしめている、ともいえるのではないかとも思えます。
もちろん、チャペックが偉くてクンデラはだめだ、というようなことをいっているのではありません。むしろ、チャペックを読んで初めて、クンデラの『存在の耐えられない軽さ』をより正確に読むことができるようになったという気がするのです。
少々舌足らずでしたが、こんなことを考えたのでした。もう少し突き詰めて考えたほうがいいかもしれません。