books199903
去年の夏××くんに会ったとき、倉橋由美子の本をすすめられたのですが、最近になってようやく手に取る気になったのでした。
内容は私も好きな(笑)近親相姦です。ここでは父と娘、姉と弟、というのが設定されていて、ラストにおいて物語すべてを閉じてしまうところがやや息苦しいのですが、近親相姦というものがそういうものだからよいかもしれないです。
原田宗典も××くんにすすめられたのです。なんか、原田宗典というとあまりよい印象がなかったのですが、少なくとも小説はよいです。なかなか繊細ですし。
で、これを読んでいるときに起きたことを××××に載せたので(笑)、ここに転載しておきます。
『三月三日』
電車はいつものように空いていた。
座席に身を投げ出すとすぐ、文庫本を読み始めた。ただぐったりと座っているだけだと、結局間に合わせることができなかった××××の締め切りのことや、目を通さなくてはいけない×××のことなどが頭の中を占領してしまい、朝から続いていた頭痛がさらにひどくなりそうだった。
その本は原田宗典という人の短編集で、ずっとまえに知人からすすめられたのを昨日になってやっと買ったものだった。
読みはじめて間もなく、「三月初旬の水曜日。とても寒い日だ。」という文に出くわした。思わず笑みがこぼれた。というのも今日は三月初旬の水曜日だったから。とても、というほど寒くはなかったが。
主人公は妻の実家へ向かうべく東北新幹線に乗った。午前中に妻が女の赤ちゃんを生んだのだ。主人公は娘の名前を考えようとするが、気が散ってなかなかうまくいかない。さらに隣の座席の頭に怪我をした男にいろいろ話し掛けられて、ますますそれどころではなくなってしまうのだった。
ちょうどそのあたりを読んでいたとき、「今何時ですか？」と隣に座っていた初老の女性に声を掛けられた。またもや不思議な符合。笑い出しそうになるのをこらえて「三時二十分です」と答えた。
それから、小説の主人公ほどではなかったが、私はその人に幾度となく読書を妨げられた。たとえば「大学生？」なんてことを聞かれたりもした。それに対しては、そういえば×××とはひとつ違いなのだということを思い出しながら「いいえ」とだけ答えた。
主人公の隣に座っていた男は、母親の葬儀に出るためにずっと帰っていなかった故郷に帰ろうとしていた。だが、福島駅のホームでカップ酒を飲みはじめた男は、果たして帰ることができたのか。
降りる駅に着いたので席を立つと、その人はもう一度「ありがとう」と言った。私はあいまいな会釈を返すことしかできなかった。
外へ出ると、頭の芯がしびれるように痛みはじめた。電車の中で本を読んだりしたのがいけなかったのかもしれないと思った。
これは××さんだかだれだかが阿部公房について書いていて、そういえば阿部公房は読んだことがないやとその代表作を読んでみたのでした。そういえば阿部公房も××くんがすすめていたのだった(笑)。阿部公房の作品の中にはとても感傷的なのがあって、それがよい、といってたのでした。感傷的でない人の感傷はいい、というようなことを言ってたと思います。
で、これはとにかくあらゆる意味でおもしろいです。未読の方はぜひご一読を。
これはを選んだ理由は特になかったような。まあ、ずっと以前から読むべき本、というようには考えていたのですが。
もちろん私小説ではないです。なんというか、若き日の大江健三郎全開、という感じです（何だそりゃ？）。頭に障害を持った赤ちゃんが生まれてきて、若き父親「バード」が学生時代からの女友達の家に入り浸って酒を飲むわ性交はするわ、それから教えている予備校の教壇で二日酔いでゲロしてそれがもとで職を失うわ、とかなんとかいう疾風怒涛の数日間を書いたもので、その間、ほとんど最後まで「バード」は自分の子供の死を願い続けているのです。
最後はハッピーエンド、というよりも、なんか教養小説的味わいであります。
こっちは、なんかショートショート的味わいがあるのですが、オチみたいな部分にこだわり過ぎた感じがあって、先に読んだ『あるべき場所』のほうが好きでした。
もちろんそういう形式である、ということであって、決してよくない、ということではないです。まあ、好みの問題とか、読んだときの気分の問題とか。
これは、以前ある人が[某所で]日記に書いていたので読んでみたのですが、ちょっと甘過ぎるかなという感じです。あるいはもう少し歳を取ったらいいのかもしれないけど、いまの私にはちょっとだめかなと。
でも、ヒロインの笑子が私に少し似ている(笑)、というのもよくないのかもしれないです(笑)。
これは今年の第一四半期のベストですね。「在日韓国人の愛と苦悩」なんていう奴に呪いあれ！
特に、『由煕』は本当に素晴らしいです。たとえば次のような箇所を読んで、私は胸を突かれるような気持ちがしました。
私には日本語がまったく読めなかった。読めるのは知っている漢字だけだった。その漢字を追い、辿り、書かれている内容を想像しようとしてみた。すぐに諦めた。無駄だとわかった。だが、それでも目をそらすことができなかった。
文字が、息をしていた。
声を放ち、私を見返しているようだった。
ただ見ているだけで、由煕の声が聞こえ、音が頭の中に積み上げられていくような、音の厚みが血の中に滲んでいくような、そんな心地にさせられていた。
いかがでしょうか？
引っ越しの話です。（勘違いでなければ）以前××さんはこの本を買われていたようなので、もしかしたらすでにお読みかもしれませんね。
三十代半ばの小説家であるところの「私」がオートロック付のワンルームマンションから出て行かざるを得なくなり（その理由は「私」と、世の中とで納得の仕方にずれがある）、とんでもない業者のおかげで交通量の多い道路と道路の交差点にあるマンションに引っ越すことになってしまう、ということなのだが、もちろんそういう話ではない。なにしろ時系列的にシーケンシャルではないし、それから引っ越しの話を書いている、という話も出てくる。巻末の解説がなんだかひどくつまらないものに感じられたが、こうして書いてみると、どうしてもそうならざるを得ないのかもしれない、という気がしなくもないですね。
それから、「文庫版あとがき」が、非常に過激でおもしろいです。人によっては怒り出すかもしれません。
でも、笙野頼子がこんなにおもしろいなんて、いまだから思うことで、ずっと昔に何かの文芸誌で読んだときにはどうしても馴染めなかったのでした。
そうそう、それで思い出したのですが、文芸誌、というのはほんとうはとても面白い作品でも、とてもつまらない作品に見せてしまう装置なのではないかと。ただ文字が並んでいればいいというものでない、と思うのは文芸誌を手に取った後で文庫本とかハードカバーの本を読みはじめるときに感じることだったりします。