妊婦の冒険 sideＢ

Ｂ−１．夢のあらまし

　ＴＶのクイズ番組に解答者として出演している僕がいて、その番組を自分の家の居間のソファーに座り、スナック菓子を食べながら見ている僕がいる。すなわち２人の僕が登場する。
　番組の司会者がとてもなめらかで、少しだけ人を小バカにしたような口調で言う。　「それではまず１問目です。ヒジョーに常識的な、まさにヒトとして円滑でマットウな社会生活を営む上で、本当にタイヘン常識的な問題からスタートです」
　画面の中の僕はもう誰が見たってわかるくらいに完全に落ち着きを失っていて、そんな風に情けないくらいにそわそわしている画面の中の僕を見ていると、それを見ている居間の僕は非常に緊張してくるしイライラもしてくる。
　何だってそんなに落ち着き無いんだ、男のくせに。みっともないじゃないか。ＴＶに映ってるんだぜ。
　「３択です。答えは３つ。目上の他人と話をするときにとるべき理想的な態度は、次のウチどれ？?、右手でハナ毛をむしりながら欠伸をしながら。?、相手の目を見ながら敬意を表しながら。?、べろべろばーとか、きゃっきゃっきゃっとか、相手を小バカにしながら。さて、答えは？お分かりの方はお手元の赤いボタンをプッシュして下さい」
　こんなラクショーな問題、しょうがないな。
　答えは当然?番にキマってんじゃないか。ソファーに座っている僕はそんな風に早々と答えをゲットしておいて、ＴＶを眺めていた。
　しかし、ＴＶの中の解答者としての僕は、そんな簡単な問題にも関わらず、ボタンに手を伸ばすことすらしなかった。
　何なんだ。
　一体どうしたって言うんだ。時間切れを知らせる派手なブザー音が鳴り響いて、司会者はＴＶの中の解答者としての僕を見下したような態度でこういった。
　「ふん、あなたには少しだけムツかし過ぎたようですね。正解は?番です。それでは次の問題・・・・」
　ちょっと待て。
　?番のはずなどないじゃないか。そんなバカな。完全無欠に間違っている。
　ソファーに座った視聴者としての僕は、断固抗議すべきだと思ったけれども、一体何処に向かって断固抗議すべきなのかワカらなかったので、とりあえず拳を固く握りしめたまま、このまま事のなりゆきを眺めているしかなかった。
　引き続き、以下のような問題と解答が示され、ことごとくソファーに座っている視聴者としての僕とは見解が違っていた。
　Ｑ２：初対面の人間と話すのに、適切な態度は？
　　?敬語を使う
　　?隠語を使う
　　?林檎を投げる
　　解答は?。
　Ｑ３：ご飯茶碗とお味噌汁のお椀の配列で、正しいのは？
　　?ご飯が右、味噌汁が左
　　?ご飯が左、味噌汁が右
　　?両方混ぜ合わせて食べる
　　答えは?。
　Ｑ４：若者のデートコースのスタンダートは？
　　?お茶を飲んで、お酒を飲んで、それからホテル
　　?薬を飲んで、断崖絶壁で、飛び降り
　　?まずＳＥＸ、それが男と女
　　答えは?。
　Ｑ５：年頃の女の子が取るべき態度は？
　　?おしとやかに控えめに
　　?すぐに足を開く
　　?すぐに口を使う
　　答えは?。
　Ｑ６：お祝い金のお返しとしてふさわしいのは？
　　?心をこめた品物をさりげなく
　　?趣味の悪い物を押しつけがましく
　　?不幸の手紙
　　答えは?。
　Ｑ７：お年寄りにとるべき態度は？
　　?席をゆずる
　　?咳をふっかける
　　?性器を掴む
　　答えは?。
　Ｑ８：自分の両親の老後は？
　　?面倒を見るものだ
　　?面倒を掛けるものだ
　　?徹底的にムシするものだ
　　答えは?。
　Ｑ９：このヨノナカで大切な物は？
　　?金、権力
　　?真実、思いやりの心
　　?コンドーム
　　答えは?（僕は?だと思うんだな、やっぱり）。
　Ｑ１０：もお、いいや。うんざり。

　とてもウサん臭いと思った。
　大体、解答者が僕１人しかいないという設定自体アヤし過ぎる。
　普通、こういうクイズ番組っていわゆる競技なんだから、競争相手がいなければ成り立たないモノじゃないんだろうか。
　これじゃまるで解答者としての僕１人を攻撃してバカにして、まるで何かを試しているみたいだ。
　何かを試している？
　一体、僕の何を試そうっていうんだ。

　そんなことを考えていると、視聴者としての、傍観者としての僕の内にとてつもない怒りがこみ上げてきて、でも、とりあえず、やり場がないので、目の前にあるＴＶを破壊してやろうと、何か、棒状の、固くて重たいモノを手にするところで、その夢はあっさり終わる。まるで僕でない他の誰かが遠くからリモコン・スイッチを使って電源を落としてしまったかのように。
　そんな夢を毎晩見ていた。

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