俺は注射がきらいだ。だれがなんと言おうときらいだ。だから俺は病院で注射をうたれそうになると、医者であろうと看護婦であろうと殴ることにしている。つい今しがたも殴ったところだ。
『き、きみ……なにも殴ることはないだろう』
『うるさい、俺に注射を打とうとした報いだ』
『しかし、きみ。病気を直しにここにきたんだろう？だから私はこうして……』
『黙れ！これ以上言うとまた殴るぞ！』
『わ、わかったよ。それにしてもまさか、注射器を持った瞬間殴られ……わあ！わるかった、わるかった。もうこれ以上言わないよ』
俺の熱意が通じたらしく、ドクターは診察を続けた。男というものはここ一番の熱意が大事だ。熱意をもって訴えれば相手は必ずわかってくれるもんさ。
『でわ……話を戻しましょう。……今日はどうなさいましたか？』
また同じ質問の繰り返しだ。普通なら怒っているところだが、俺は自分でも驚くくらい寛容な性格だ。だから、親切に同じ答えを繰り返してやろう。
『実はな、どうやら風邪を引いたようだ』
『風邪かどうかは、私が診てみないと……』
『お前は俺を信用しないのか！本人がそう言っているんだから間違いないだろ！俺の病名は風邪だ。だから早く直してもらいたい』
『は、はい……できるかぎり努力します……で、熱はあるのでしょうか？』
『いくら医者といっても、プライベートなことには干渉しないでもらいたい』
『は？私はただ熱があるかと聞いただけなんですが』
『だからそれがよけいな干渉だというのだ。俺が熱があろうとなかろうと、あんたには関係ないことだ』
『そんなこと言われても……まあいいでしょう。では、聴診器をあてますので、もうちょっとそばに来てください』
『お前がこい』
『……はいはい。私がきますよ。じゃあ、服を上にまくってください』
『お前がまくれ』
『あのぉ……なんで私が服をまくらなきゃいけないんですか！私に聴診器あてたってしょうがないでしょう！』
『まずは自分が脱ぐのが礼儀というものだろう』
『わかりましたよ。はい、これでいいでしょ？わたしも脱いだんだから、あなたも脱いでくださいよ』
相手が脱いだ以上、自分も脱ぐというのが礼儀というものだ。俺は礼節というものをわきまえている。礼儀に反した行いというのは、俺のプライドが許さない。俺はシャツを脱ぎ、ついでにズボンもパンツも脱いだ。男はやるときには徹底してやらねばならないのだ。
『あの、なにも全裸になる必要はないんですが……』
『遠慮するな。せめてもの心づもりだ』
『はあ……そうですか。では聴診器をあてさせてもらいます』
そういって、俺の胸に聴診器をあちこちあてた。やがてカルテに訳の分からない文字を書き込んだ後、俺にこう言った。
『うん……どうやらかなりひどうようですな。熱もあるようだし。ひとつ注射を打っておきましょう』
オチは君たちが考えてくれたまえ。