夕暮れ時。青山通りで彼女に偶然出会った。
『久しぶりね』
彼女は、屈託無い笑みを浮かべてそう言った。７年前、俺達はつきあっていた。
ちょうど高校を卒業してすぐの頃だから、ちょうど今時期だろうか。彼女とは４年ちかくつき合いが続いた。なぜ別かれることになったのか、今は思い出したくない。もう遠い昔のことだ。二人でよく原宿に出かけ、必ず最初にキティランドによって、それから目的もなく竹下通りを何度もいったりきたりしていたものだった。
『久しぶりね』
『ああ、久しぶり。何年ぶりだろうな』
なぜか、偶然の出会いに二人とも驚かなかった。そして俺達は、歩きながら昔話を始めた。俺は何年も前のことが、つい最近のことのような錯覚を覚えた。もう遠い昔のことなのに。
『ねえ、覚えている？毎週私たち、原宿を一日中ぶらぶらしていたわね』
『確かに……な〜んもすることなくぶらぶらしていたな。金がなかったからぶらぶらするしかなかったもんな』
『今考えると最低のデートよね』
彼女は俺の方を向いて笑った。俺は今よりずっと楽しかった。俺達はいつの間にか竹下に向かっていた。俺の手には彼女の手のぬくもりが伝わっていた。
『今は何してるの？』
『スタジオでバイトしてるんだ』
『ＰＡ？』
『そんなんじゃないよ。ただの受付。時給はめちゃくちゃ安いよ』
『そう。今もぜんぜん貧乏じゃん』
『あのころよりは、ましだよ。で、そっちの方はどうなんだよ』
『私はＯＬ。３年まえに勤めだしたの。やっぱりこの歳になると安定して給料もらえる方がいいわ』
『でも自由がきかないだろ』
『最初は窮屈だったわ。そうよね、ずっとプーしてたし。でもなれると何ともないわよ。だいたい私達くらいの歳の人はみんなそうやって暮らしているのよ。あなたもいい加減安定したら？』
『おれはもうちょっと、この暮らし続けていくよ。それはそうとお前、男の方はどうなんだよ』
『ちゃんといるわ。かっこいいわよ』
『へえ、見てみたいな』
『妬いてるの？』
『まさか今さら。ただ興味があるだけだよ』
『そう……あなたの方はどお？』
『半年前に別れたっきり』
『だれか狙っている娘いないの？』
『いまのところいない。そういえば昨日知ってる女から来週会おうって電話きたけど、ちょっといっちゃてるやつだから、考えてるんだ。顔は可愛いんだけどな』
『へえ、そんないっちゃてるの？』
『男だったら殴っているよ。絶対』
『でも可愛いんでしょ。まんざらでもないんじゃない？』
『う〜ん、どうかな』
そんな会話をしている内に、明治通りに出た。
『せっかくだから、どっかよっていくか？』
彼女は、俺の手にからみついてきた。
『このままでいいわ。また駅の方へもどりましょ。駅に着いたらまたここまで歩くの。しばらく歩いていたいわ』
俺達は向きを変えた。何年かぶりに黄昏の光景の一員になった気がした。