午前二時頃夜の底にすとんと落ちた。
前の日の晩の、
午後九時頃からわたしたちはずっと電話で話し続け、
少しも飽きることがなかった。
そしてわたしたちは夜の底にすとんと落ちた。
夜の底は固くひんやりとしていて、
でも夜の底のわたしたちは、
ひどく曖昧なものに変化していた。
──外で誰かが叫んでいる。
──平和なんだよ、つまり。
──なるほどね。蝉が鳴いてる。
──よるだからね。
──なるほど。
どの言葉をどちらが発したのかよくわからなかったし、
夜の底ではそんな区別は無意味だった。
どちらの声も受話器から聞こえてきていた。
──暑いね。
──暑いね。
──公園に移動しよう。
──うん、公園に移動しよう。
わたしたちは携帯電話に持ち変えて、
そんなに遠くない公園で落ち合った。
公園は暗かった。
明りの半分くらいが壊されていた。
池の側にはバットが数本落ちていた。
金属バットや木のバット、
それからハリネズミのように釘を打ち込んだバット。
血の付いているものもあったけど、気にならなかった。
わたしはハリネズミみたいなバットを手に取った。
公園は少し大きな通りに面していて、
ときどき車やバイクや自転車や人が通る。
わたしたちは壊れた明りの下の暗いベンチに並んで越しかけて、
通り行くものを眺めた。
会話は携帯で。
──うるさい。暴走族？
──ひとりだから、暴走族とはいえないのでは？
──こんな夜中に「俺はここにいるんだ！」って主張しないとやってけない人。
──寂しいんだね。夜を一緒に過ごしてくれる人がいないのかな。
──だね。
──酔っぱらい。とっくに終電も終わったろうに、どこから帰ってきたんだろう？
──自分の家からじゃないの？
──ああなるほど。
──不規則に加速減速一時停止を繰り返す車。さっきも通り過ぎていったよね？
──車がイっちゃってるんじゃないの？
──叫びながら走っていく人。
──さっきと同じ人かな？「俺は正しいんだ。ぜったいに間違っていない」だって。
──罪の意識に苛まれてるんだね。
──自転車。こんな時間にあんな格好してどこへ行くんだろう？
──うーん、よくわからない。いろんな人がいるね。
ひとりの女の子が息を切らして公園に駆け込んできた。
それを追って、二人の少年が公園に駆け込んできた。
女の子がわたしたちに駆け寄ってきて言った。
──助けて下さい！あの男達に乱暴されかけて逃げてきたんです。
わたしたちは女の子に金属バットを手渡した。
女の子は一瞬ためらったがようだったが、
次の瞬間には覚悟を決めたようだった。
わたしたちは少年二人をめった打ちにした。
もちろん死ぬまで。
夜が明ければ公園に巣食う数百羽のカラスが始末してくれるだろう。
午前三時。
女の子は去っていった。
──そろそろわたしたちも寝ようか？
──うん、そうだね。
──じゃ、おやすみ。
──うん、おやすみ。
携帯を切ってからのことは何も覚えていない。