暑い。全身弛緩。脳内弛緩。職場は冷暖房完備。それでも気温が高いとカラダに堪える。なぜなんだ〜〜〜。軟体だからか？
午後になってさらに気温上昇最高気温三十一度九分。身体／精神の弛緩進行わたしのカラダはどろどろ溶解。惨状に見かねた上司は「舞ちゃん(笑)（三十過ぎて「ちゃん」でもないよねでもきみは「ちゃん」だよねなんとなく可愛いんじゃないけどカワイイ女の子はカワイイじゃなきゃいや可愛いかあっでもこれはセクハラじゃないからねたぶんだってわたしも女だからいやでも女同士でもセクハラかとほほ）は２８℃以上で溶けちゃうんだねチョコレートみたい冷やしても風味が落ちてたりしてもう誰にも食ってもらえないとかあたしってオヤジ？」と午後からの休暇をあっさり認めてくれた。「生理？」などと抜かしやがったセクハラ二十代アホ馬鹿間抜けクソ青年の頭を愛機シンクパッドで粉砕、あたしのことを影でひそひそひそひそ砒素砒素抜かしやがるクソ馬鹿女の烏羽玉の黒髪、もといきたねー茶色い髪の毛にゲロを吐きかけてから地下鉄までの数十メートル。
がとてつもなく長い。わたしはほとんど液状に。溶けちゃう。カラダが。とけちゃうあんあんあんあ〜んなにいってんだよこのバーカのーみそ液状化。まっしろしろなお肌を千代田区特有の強い紫外線が貫く。あ〜ん。きもちイイイイイイイっちゃう。メラニン色素が足りなーい。ついでに理性も。誰かくれ。おのののの。
地下鉄は混んでいた。なぜだ？と思ったらとある駅に停車した途端に空いた。つまりその駅の出口に近い車両に乗ってしまったと。がんがんがんがん癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌癌ガンガンガンガ。
んがんがんがんがん。
とわたしの頭を連続強打。頭蓋骨陥没縫合線から分解／解体。というのはつまり頭痛。というのはつまり肉体／神経破壊者。ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン。
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンだからさ〜のーみそ溶けちゃってるんだよ文句あっか？というのはエアコンディショナーの効き具合それから電車の車輪がレールの継ぎ目を殴打する音しかし地下鉄のイいところは紫外線にあたらないで済むこと。
自宅到着直後即死。
いちばん最近エアコンを使ったのはいつだっけ？とか思いながらスイッチを入れるとホコリが吹き出してきて全身埃まみれ。蹴飛ばしちゃろうかと思ったがなにしろエアコンはわたしの頭上三十センチメートルの位置に。跳び蹴り食らわしゃいいんだろうけど残念ながらわたしの運動能力はそんなにないというかそれ以前の問題で、自分の部屋の中さえ躓かずに歩けない始末。というか、それは運動能力じゃなくて掃除とか片付けとかセイリ整頓とかの問題で、でもそれって問題のすり替えだよなとかそういうくだらない考えというか思っているというか、そんなのが走馬灯のように頭の中を駆け巡っていた走馬灯ってなんだ？なんて無駄な脳の使い方！なんてのはおかしい。なにしろのーみそは液状化していたから。というわけでその場に昏倒。
右手が震えていた。携帯電話を握り締めていたのだ。音もなく（少しはするけど）振動する携帯電話と、その振動を吸収する右手。きみの手ってごついねときみが言ったからきょうは右手記念日ああなにをやってるんだだいたい、右手ってアレのことを暗に刺してるんじゃなかったっけ？ぐさっ。そーゆーのを見たことないけど。どうせあたしの手はごついよ悪かったねピアノばっかり弾いてたらこんなになっちゃったんだよ。
携帯を耳に当てると雑音が。「はあはあはあ、おくさん、なにいろのパンツはいてますか？」とすら聞こえてこなかっただいたいわたしはおくさんじゃないって。パンツくらいはいてるけどさ。「まい？
──のゐず──
暑いねえ今日も」
「昨日は涼しかったんだけどね」ばかやろ。
「寝てたでしょわかるんだからまだ寝そべってるでしょいいご身分ね」
「溶けた」
「でしょうねひま？」
「まあね」
「ご飯食べない？」
「食べるよ、そりゃ」
「死ねば？今から出て来れる？」
「気温が二十八度以下なら」
「ホワイトチョコレートなやつ駅前で午後七時じゃあね」
携帯は沈黙した。時刻はだいたい六時半。顔を洗って着替えて外へ出ると薄暗くなってた。月が薄雲の向こうに。昼間の暑さが嘘のような、ってほどじゃないけどちょっと涼しい風が。車のヘッドライトが尾を引いて、きれい。街灯が、ずっと向こうまで続いてる。きれい。こういうのってイっちゃう。おまんこじゃなくてのーみその問題。
駅前の雑踏で未佳が長い髪を涼風になびかせて。
「婚約解消したんだってバカじゃないのもう絶対あんたと結婚してくれるなんて物好きなオトコ現れないよ保証するよ・・・泣くなよ」
泣くぜ、普通、それだけ言われりゃ。
「別に、どうしても結婚したいってわけじゃないし〜」
「嘘つけ」
「そうかも(笑)でも今はイっちゃってるから許す！」
「またクスリ？」
「凝固剤」
「やっぱりね」
とかなんとか。信号を渡って雲雀のファミレスへ。未佳はスパゲッティ、わたしは和風ハンバーグステーキとごはんのセット。未佳は疲れ気味。煙草も一本しか吸わなかった。食事も黙々と。しばし雑談して、さよなら、の前に頼んでたチケットを受け取る。もちろん金を払って。
帰ったらなんにもすることが見つからなくて、でも昼間にくらべるとずっと元気で、部屋の中に転がってた本を手に。赤坂真理。ある人が天才だって言ってた。
半分くらい読んだところで、それに同意するのも吝かではないかなって気がしたのじゃなくて、天才だって思った。
でも、書きたい中枢が同時に著しく刺激されてしまって、のーみそと指先が疼く。やむなくパソコンに向かって。キーボードを叩いてそう叩く叩きつける。ちょっとだけ真似。稚拙っつーかバカ。「おまえちゃんと読んでるのかよ(笑)死ねば？(笑)」みたいな。
死んだほうがいいとは思わないけど、殺されたほうがいいかもしれない。あたしが。
もしそれで天才が与えられるならイノチでもカラダでもなんでも差し上げます全身に癌が転移しまくって苦しみまくって死ぬんでもいいです甘受します残りの人生をオムツをして過ごすのでも構いません。
ＪＬＢの『隠れた奇跡』のヤロミール・フラディークのように天才が与えられるのであってもいいです。死の寸前の時間がフラディークにとってだけ拡大して与えられたように、昏睡状態で二度と回復の見込みがないときに天才が与えられるのでも構いません。偉くなりたいのでも作家になりたいのでもないんです。天才になりたいだけなんです言葉の天才になりたいだけなんですだけはよけいだ言葉の天才になりたいんですそれ以外には何もいりません・・・たぶん。ちょっと嘘かもしんない。どうしても欲しいものはほかにもあるけど内緒。
真夏日のホワイトチョコレートのように溶解するわたしのイメージ。凝固剤を飲むのだ！いや、冷却せよ、まったりと。