朝から雨。
気分はウルトラマリンブルー。左手のくすり指のラピスラズリの色。
朝食はフランスパン。昨日の残り。半分に割ってオーブントースターで軽く焼いて、それからマーガリンをたっぷり──と思ったらほとんどなくなってた。買わなきゃ。ブルーベリージャムもなくなりかけてる。ポリエチレンの容器に入った蜂蜜は、白く固まって出てこない。口が細くてスプーンもナイフも入らない。ラベルにはぬるま湯に浸けて６０度まで暖めなさいと書かれてるけど、温度計がないから６０度になったかどうかなんてわかんない。
フランスパンを食べ終え、お湯を沸かして紅茶を入れた。もちろんティーバッグ。５０個入り２９８円のやつ。ほんとはコーヒーを飲みたかったけど、我慢。自律神経失調症にはよくないと同僚Ｍが教えてくれたのでした。
さいきんしょっちゅうめがまわったりするんだどうしたんだろうああそれはじりつしんけいだよわたしもときどきやるんだけどたたみのへりにつまずいたりはしらにぶつかったりしてやだよねうんそうそうでもうちにはたたみもはしらもないけどねおかげでむしばなのにはいしゃにもいけないどうしてだってあのいすにすわってぐおーんってうしろにたおれちゃうとのーみそもそのままぐおーんっていっちゃってあたまぐるぐるげろはきそうになっちゃうんだもんへえそうなんだわたしはそんなこともないけどねいいなあうらやましいなあからだのとっかえっこしようよ。
ほんとに自律神経失調症なのかどうかはわからないし、どうでもいい。なにかたいへんな病気の前触れでも別にいい。明日死んでもあんまり困んないし。
でも痛いのと苦しいのは死んでもヤだ。
買い物に行くのがめんどくさい。雨の日曜日なんてそんなものだよね？冷蔵庫の中をのぞいてみると、ピーマン×１、タマネギ×３／４、納豆×１、ブルーベリージャム×１、レモン×１、レタス×１／４、牛乳１リットル未開封×１、ロースハム未開封品×１、卵×２、あとは調味料とか粉チーズとか、有史以前から眠っているワケノワカラナイ諸々。
食料貯蔵庫──キッチンの床に転がしてある伊予柑の箱なんだけど──を開けると、トマトの缶詰×２、シーチキンの缶詰×３、トロピカルフルーツミックスの缶詰×２、フルーツみつ豆の缶詰×１、パック入りご飯（賞味期限19990707）×２、スパゲッティ（1.6mm）450g×１、赤みそ500g未開封品×１が入っていた。
米はまだあるし、買い物に出掛けなくとも良さそうだ。
洗濯物が溢れ返ってる。でもこの雨じゃ。
というわけで当面の家事を放り出して読みかけのＪＬＢを開く。でも、ウルトラマリンブルーの気分ってのはつまり何をしてもどうやってもこころの一部分がついてきてくれない状態のことらしくて、こころここにあらず、ってのと似てるけどここにあらずの部分がれよりもずっと小さいのがその特徴のような気がする。
ＪＬＢはこころにそういう部分があると頭にすっとはいってこない。わたしの場合、ふだんでもＪＬＢを読むのはたいへんなんだけど（バカだから）、今日はもうお手上げ。
することが見つからない。ウルトラマリンブルーの気分はちっともよくならない。よくなるはずがないってことはたぶん誰よりもわたしがよく知ってる。テレビは付ける気にさえならない。しかたなくニフティに接続。オートパイロットで流す。−−メールが１２通届いています（未読分１通）−−未読の一通は読まずに削除。それからＲＯＭしてるフォーラムのログを読む。なんか平和。むかつく。「むかつく」をMylogに記録。ありゃなんだか日記みたいだね。まあいいや。つまんない。「つまんない」もMylogに記録。
ここ最近のMylogはこんな感じだ。
傷ついた
むかつく
死ね
死ね
死ね
死ね
傷ついた
傷ついた
めちゃくちゃ傷ついた
死ぬほど傷ついた
むかつく
むかつく
傷ついて死んだ
傷ついた
死ねば？
傷ついた
アホ！
死ぬまで憎み続けます。
軽蔑する
傷ついた
傷ついた
傷ついた
たのしいかも(^-^)/
・・・
・・・もういいよ
傷ついた
で、このあといま書いた「むかつく」と「つまんない」が続く。Mylogが何であるのかは書かない。通信ログの感想、ってわけじゃないよ。それも含まれるけどね。いつか自分でもなんであるか忘れるかもしれないけど、それならそれでいい。
「傷ついた」がすごく多い。わたしって無神経でがさつな人間だけど、案外傷ついてるんだなって思う。まあ、傷つくってったって程度ってのがあるとは思うけど。書いてないから、程度も理由もわからないけど。それに、なんで傷ついたかなんて思い出したくもない。
たとえばさあ、すっごくバカらしいんだけど、スーパーへ買い物に行くでしょ？で、比較的親しくしてる隣の部屋の住人に偶然会ってうまく挨拶できなくて傷つく。美味しそうなチーズがあったから手に取ろうとするとそのパッケージが隣に並べてあった６Ｐチーズに引っ掛かけてなだれ落として傷つく。ほうれん草一束をカゴに放り込んで歩いているうちにそうだ冷蔵庫には昨日買った小松菜があったんだと返しに行って傷つく。今日は麻婆豆腐にしようと挽き肉の売り場に行ったらお店の人が陳列していて一分くらい待ってもどいてくれなくて傷つく。仕方がないからほかの売り場でも見てこようと傷つく。で、戻ってみたらまだ作業中で傷つく。もう一度店内を回ることになって傷つく。戻ってみたら店員さんはいなくなってたけどどういうわけか買いたかった豚挽だけは昨日の日付のばっかりで傷つく。仕方がないので牛豚合挽を買うことにして傷つく。レジに並ぼうとしたら直前で「ほかのレジへお回りください」の札を出されて傷つく。ほかのレジに並んだら、いちばん短い列だったのに前に並んでいる人のカゴがことごとく満杯で傷つく。ほかのレジの、わたしよりも後ろに並んでいた人に追い越されて傷つく。ひとつ前に並んでいた人がお金を払う段になって恐ろしくトロいので傷つく。そんなことで傷つく自分に傷つく。わたしの番になってカゴの取っ手を倒したらレジの人の手を挟んでしまって傷付く。1012円なのに財布の中には一万円札が一枚と百円玉一枚しかはいっていなくて傷つく。お釣りに五千円札を混ぜてくれなくて傷つく。レジで五百円玉を切らしていたために百円玉９枚と五十円玉一枚と十円玉３枚と五円玉一枚と一円玉三枚で財布が膨れてしまって傷つく。自前の袋を持ってこないと地球に厳しいと非難されるのだろうかと傷つく。袋がぴったりくっついてなかなか開かなくて傷つく。台を拭くらしい雑巾で指を濡らしてやれば開くかもしれないけどなんだか雑巾に触るのもいやで傷つく。挽き肉のパックをビニール袋に入れようとビニール袋のロールをほとんど一回転させてようやくはしっこを見つけて傷つく・・・てな具合で、些細なことまで含めたらほとんど絶え間なく傷ついてるんだよね。バカバカしいことだけどね。でも実際そうなんだからしょうがない。
でも傷ついていることを自慢するだけならそれはおバカというものでしょう。「だけ」でなければ自慢してもおバカじゃないと思うけど。でも自分のこころの状態をモニターするのってちょっとだけ楽しい。
ベッドにうつぶせになってみる。煙草が吸いたい。一度も吸ったことないけど。でもベッドにうつぶせになって煙草でも吸いながらビデオでも見たい気分。でも煙草もないしビデオもない。近所にビデオ屋はあるんだろうか？煙草の自動販売機はあるんだろうか？それに煙草はどうやって吸ったらいいんだろう？
いずれにしても雨だから外に出るのがめんどくさい。で、ベッドに仰向けになってぼーっとしてたら眠ってしまって、目が覚めたら午後二時で、スパゲッティが食べたくなってた。鍋で湯を沸かし、フライパンでタマネギみじん切りとピーマンの輪切りを炒め、トマトの缶詰×１／２を加える。で、沸騰した鍋に塩を適当に加えてからスパゲッティ100gを入れる。それから器に水を少し入れて電子レンジにかける。フライパンの中身がからからにならないようにスパゲッティの茹で汁を少し加える。スパゲッティが茹で上がる頃には電子レンジの中の器も暖まってるし、フライパンの中身もまあまあの状態になってるってわけ。
タバスコと粉チーズをたっぷり掛けていただきますと食べ始めたとたんに電話のベルが。このやろ、村上春樹の読み過ぎだぞ。区議選に立候補したなんとかさんの事務所で、このやろだ。いま、スパゲッティを食べてるんだ！あ、村上春樹は茹でてるんだったっけ？おい、そこのオマエ、指でグラスかき混ぜるなよ！
などと密かに罵倒する（もちろん春樹様を、ではありません）。
ごちそうさまでした。口のまわりに付いたトマトソースをティッシュで拭ってそのまま口に咥えている自分を発見して呆然とする。それは最晩年の母親がよくやっていたこと。癖なんかじゃなくて、そうしないと口から唾液が滴れてしまうんだ。舌にできた癌を切り取って、左手首の内側の筋肉でその分を補修して、左手首のなくなっちゃった皮膚を腿から移植するという職人芸的な手術を受けたあと、そうなっちゃったのだ。それはいわば「仕様」であって失敗ではない。１３時間もかかった手術が失敗でしたごめんなさいなんて絶対に許せない。でもほんとに失敗したら許しちゃうんだろうけど。午前八時三十分に母親を手術室に送り出し（でもどうして手術室ってあんなに恐いんだろう？病気や怪我を治してくれる場所なのに）、病棟の談話室でずっとひとりで待っていた。患者の家族のための控え室なんてものはなかった。テレビドラマなんかでよくあるように手術室のすぐ外の椅子に不安な顔で待ってるということにもならなかった。患者の所属している病棟のナースステーションの側にいないと、何かあったとき（「何か」ってなんだ？）連絡がとれない、ということなのだ。手術室は、あとで母親から聞いたところによれば、ずいぶん広いところらしかった。その日はほかにも何人かが同じ部屋で手術を受けたらしかった。談話室では最初のうち本を読んでいたのだけど、今日みたいにちっとも頭に入ってこなかった。そのとき読んでいたのはメルヴィルの『白鯨』で、実は訳者の孫とは知り合いというか、友達というか、恋人というか、というような関係だったことがあったりした・・・なんてことはどうでもよくて、再読のせいだったのかそれともウルトラマリンブルーの気分に冒されていたのか、とにかくだめだった。で、患者さん達が見ていたテレビをぼーっと見ていたのだけれど、ほんとにぼーっと見ていたのでいったいどんな番組をやっていたのかまるで覚えていない。でももしかしたらそういうのがテレビの特性かもしれないとも思ったりもする。お昼は売店で買った菓子パン、夕食は近所のラーメン屋さん。夜になってからおじさんが来てくれたので、その間に病院を抜け出して食べに行った。でもおじさんはおばさんが風邪で熱を出して寝込んでるということで九時過ぎに帰ってしまった。というか、最初の予定では九時頃には手術が終わって病棟に帰ってくるはずで、母親と会えるはずだったのだ。だったのだけど、どういうわけか長引いてしまったのだった、おばさんを放っておくわけにもいかないしと、すまなそうに帰っていった。すまないなんてことはないよ、おじさん。気持ちはお母さんもわかってるから。九時。消灯時間。とゆーわけで、談話室の電気も消されてしまった。窓の外から差し込む街灯の光で本を読もうかとも思ったけど、眼が悪くなりそうだったからやめた。で、結局母親が病棟に戻ってきたのは１０時過ぎ。予定よりもほぼ一時間遅れ。意識は戻り掛けていたようだけど、わたしのことはよくわからないみたいだった。でも、暗い病室の中で枕もとのスタンドだけがついているのってどうしてあんなにヤな感じなんだろう？
それから医者に呼ばれて手術の説明を受けた。なんかいろいろ手順とか経過とかを教えてくれたけどよく覚えてない。それから銀色の金属のケースを持ってきて、切除した箇所を見せてくれた。見覚えのある、切除された舌と歯と歯茎（顎の骨の一部を切除したのだ）、それから妙に白くてつるつるした癌細胞の固まり。
手術の半年前の母親の誕生日に、って、ずいぶん「の」が続くなあ。なんかこういうのってダメとかどっかで見たことあるけど、知ったことか！・・・ラピスラズリのイヤリングをプレゼントした。父親が死んだ翌々年からずっと（翌年は喪に服していたので）、旅行に連れ出していたのだけど、その年はなんだか元気がなかったし、乗り気でもなかった。だからプレゼントをあげることにしたのだけど、たぶんあの頃には発病してたんだろうなって思う。一緒に暮らしてて、いろんなことに気を付けてたつもりだったけど、気付いてあげられなかった。まあ、しょうがないことなんだけど。
母親のものはここへ越してくる前にほとんど処分してしまっていて、だからこういう小さいものしか手許には残ってない。二年間、消滅した家族の遺跡でひとりで過ごしたけど、もういいやって。もうたくさんだって。
引き出しからラピスラズリのイヤリングを出して付けてみる。ぜんぜん似合わない。もしかしたら母親にも似合ってなかったのかもって思うと少し悲しくなる。いったい、わたしは母親の気持ちとかをほんとに考えていたのだろうか・・・なんて考えるのはばかばかしいな。だって、気持ちは伝わってたから。自分を正当化するってことじゃなくて、ほんとに伝わってたから。うまく伝わってたかどうかはよくわからないけど。
なんて考えているうちに気持ち悪くなってきた。ストレスだ。左手のくすり指を見る。ウルトラマリン。ラピスラズリ。邪魔。家にいるときは外してるもんでしょ、普通。くすり指から抜き取ってブラウスで拭いて、それから仰々しい箱に封印する。できれば二度と開けたくない、と思ったけど、また気が変わるかもしれない。でもたぶん二度とくすり指にはめることはない。そのために外したのだから。
電話。選挙じゃなかった。わたしの名前を呼ぶ。吐き気がする。比喩ではなくて。電話を切ってトイレに掛け込もうとするのだけど、その前に吐き気がすっと治まる。詰め込んだばかりのパスタを胃袋いっぱいの寄生虫のように吐き出すのはごめんだ。
それからパソコンの電源を入れてニフティに接続。未読メールはなかった。巡回してるフォーラムにも未読はなかった。つまんない。雨の日曜日。それからふと思い立ってこの文章を書いてる。駄文？おっけー、その通り。小説じゃない？おっけー。エッセイ？おっけー。もう、なんでもいいよ。日記でもいいや。
書いてるうちに夕食を食べるのが（作るのが、じゃなくて）面倒になっちゃって、牛乳を飲んで済ます。でも「日記でもいいや」まで書いたところでなんにも書くことがなくなっちゃって、ニフティを巡回。いくつか未読があった。読んで気晴らし。で、また書いて、これからお風呂。