あひると一緒に散歩。雨の日のアンニュイ。
恋は困難だ。しかし愛はもっと困難だろう。不安がなつかしい。
「私のこと避けてるでしょ」
「そんなことないよ」
夕暮れせまる池のほとり。草の上に寝ころぶと、空がどこまでも高く澄んでいた。紺色というよりも菫色に近い空。
少しはアソビたいよ。放浪したりしてね。
手をつないで散歩したりするのも楽しいかも。少し暑いかなあ。普通の夏らしいといいな。雲を見たり。
「チョコレート食べる？」
「うん」
一粒のチョコレートを口にいれて溶かしながら雨が小止みになった空を見上げると、西の方の屋根の上に少し明るい晴れた部分が見えてきた。
池に沿ってどこまでも歩いて行く。
川に近い草原を駆けて行く。そこに月の光が差している。コンクリートの白い護岸の上からも走っているのが見える。日は傾きかけている。
大声を上げながら誰かを追いかけて行く。空はきれいなすみれ色・・・。
岸の方を見ると、青い車体の夜行列車が海に迫った崖にへばりついている。窓から黄色い光がもれている。月光に光る波しぶきをさかんに浴びながら、海面すれすれの線路を遠ざかっていく。
月の光が黒い海面に黄色い光を漂わせている。海面はゆらゆらと小さいくうねっている。そしていつもより高くこちらに迫ってくる。
その色は、橙色、もしくはバーミリオンに近い灰色だった。
すると、門の前に赤い車が止まり、降りてきた人に、
「チョコレート食べる？」
「いただきます」
見上げると、夜空におぼろ月がかかっていた。