鎌倉に行きたい。たぶん夏くらいからずっと。でもなかなか実現しない。なぜ？
たしか夏の終わる頃、明日こそは鎌倉に行くぞと決心してでも結局行かない、ということがあった。理由は忘れた。どうせ低気圧が接近して低血圧、とかそんなのだろう。低気圧でほんとに低血圧になるかどうかは知らないけど、心身の調子が悪くなるのはよくあることだから。
鎌倉にはこれまでに少なくとも二度行ったことがある。回数が曖昧なのはよく覚えていないから。なんか、歳を取るに従っていろんなことがどんどん頭の中から消えていく。子供の頃は何かが記憶から欠落してしまうということがどうしても理解できなくて困ったほどだったのに。なにしろ小学生の頃は宿題を忘れたことなんて一度もなかった。やらなかったことは数限りないけど。
古い記憶が消滅してしまうのかアクセスできなくなるのか知らないけど、思い出せなくなって困ることもたいしてないから別に構わないんだけど。
で、少なくとも二度は鎌倉に行ったことがあるんだけど。二度とも小学生のときのことだったかもしれない。一度は遠足で、小学生だったのは確実。大仏の前で撮った記念写真もある。大仏のほかにはどこかのお寺と由比ヶ浜に行ったけど、あとは覚えていない。でも遠足で鎌倉に行って鶴ヶ岡八幡に行かないなんてことがあるんだろうか？
ああそうだ、思い出したけど、頼朝の墓も見たし、誰かが閉じこめられた牢跡も見たような気がする。
もう一度は家族で行った。これも小学生のときだったような気がする。鶴岡八幡とそこに至る参道？を見たのは確実だけど、ほかはまるで覚えていない。確かこのときに鶴ヶ岡八幡の境内で舞台を見たような気がする。
少し前に鎌倉を題材に小説？（だって「小説」になってないかもしれないから。面倒なので以下「？」は略すけど）を書いたけど、それは鎌倉での奇行の夢と鶴ヶ岡八幡を訪れたときの記憶をもとにでっち上げたもので、地図もガイドブックも見なかったし、インターネットで検索を掛けることもしなかった。イメージを大切に、ってことじゃない（それはあまりにバカバカしいことだと思う）。ひとつの理由はそういうものを書く上での秘密だから書けないけど、もうひとつの理由はもし記憶違いや夢のめちゃくちゃさが判明し過ぎたら書けなくなっちゃうから。いや、書けなくなったって困るのは私だけなんだけど、わざわざ困る必要もないから。書きたいときは書いた方がいいから、やっぱり。
いちばん気になっていたのが鶴ヶ岡八幡にあったと思われる舞台だというわけ。なにしろそこは物語のクライマックス？で重要な場所だったから。鶴ヶ岡八幡の境内で、曇り空の下、確かにそれを見たような気がしていたのだけど、ほかの場所と混同していることだってあり得るし。それに舞台なんてどこにでもありそうだし。
でも静御前が舞を舞ったとかいうのは確か鶴ヶ岡八幡の境内だったような気がして。史実かたんなる伝説かは知らないけど。そういう話が小説を書く気持ちを別な面からかき立てるので、舞台の存在はなかなか大事なことだったのだ。
実際には記憶を信じて見切り発車してしまったわけなんだけど、読んでくださった方が舞台の実在することを教えてくださったときにはほっとしてしまったのでした。小心なわたくし。
鎌倉に行きたくて仕方がなくなったのは、その小説を書いてからのこと。自分の中で密かに盛り上がったというか。改めて地図を買って、確かにあの参道（なんとか大路みたいな名前が付いていたような気がするけど思い出せない。その地図をみればいいんだろうけど今現在行方不明につき）が存在していて、町の背後に山が迫っていることでもほっとした。漠然とした知識はあったってことなんだろうけど。歴史物語としての鎌倉幕府のはじまりと滅亡とか。剣を海に投げ込んだら潮が引いたとか引かないとか。
子供の頃は、鎌倉なんて少しも好きじゃなかったのに。ついでにいえば奈良、京都も嫌いだったし。興味がないんじゃなくて積極的に嫌いだった。お寺がたくさんある町を巡って何が楽しいんだ？みたいな。
でも今になってみるとそういう町が大好きだったりして、これって食べ物の好みが変わるのと似ているのかもしれない。子供の頃はハンバーグが好きだったけど、大人になってからは煮魚か好きになったとか。みんながみんなそうってわけじゃないだろうけど。大人になってもハンバーグがいちばん好きな人だっているはずだし、子供の頃から煮魚がいちばんって人だって。
そうなんだけど、鎌倉には子供の頃以来ずっと行っていない。京都には何度となく足を運んでいるのに。どういうことだ？ちなみに奈良にも未だに行ったことはないのだけど、こちらは京都よりもさらにたくさん電車に乗らないと行けないからだったりする。でも鎌倉なら、そんなにたくさん電車に乗らなくてもたどり着けるのに。っていうか、京都の方がずっと遠いじゃないか！
一人で行くのが億劫だからかな。誰か私を鎌倉に連れて行ってください。