旅行の話をしましょうか。
そう、そのときの旅行はコンセプトからして変でした。「『飛び梅』と菜の花を見てヒバリの声を聞くツアー」。企画したのは私。参加したのは私一人。とゆーわけで、さっそく北九州にＧＯ！
でもどーゆーわけか新幹線を使ったので、昼前に東京を出たのに小倉に着いたのは夕方でした。そこでほかの電車に乗りついで、ある駅で待つことしばし。やってきたのは兄。その頃そこに住んでいたから、ちょっと数日お世話になりますって、そーゆーことです。
その翌日、太宰府へ。「飛び梅」はその当時の「死ぬ前にどうしても見たいもの」リストに入っていて、ようやくようやく思いを果たすことができたのでした。ちなみにその当時のそのリストには「ケルンの大聖堂」というのもありましたが、これもその後見ることができました。で、いまはどうかというと、リストは空白です。やばい！このままでは「もう何も思い残すことはありません」ということになってしまいます。どなたか、よい物件をご紹介ください。
飛び梅はもう、ほんとに、なんていうか、すごかった。ずっと、眺めていたかった。何時間でも、あるいは何日でも。あるいは何年でも。地面に根付いてしまうまで。あるいは地面と同化してしまうまで。私は自分の思いを俳句にしてみた。
飛び梅やああ飛び梅や飛び梅や
それからその辺をぶらぶらして、なんとかいう禅寺にいってみた。靴を脱いで上がって座敷に揚がると、奥に庭園がありました（枯山水っていうのかな？）。そこを眺めながら、兄と庭園空間についての問答をした。すると庭に一羽のひよどりがやってきて、私の顔を見ると飛び去っていった。
それから兄が密かに利用していた茶店で梅が枝餅を食べた。おいしかった。私達は緋色の毛氈に腰掛けて、今にも雨の降り出しそうな空を見あげてお茶をすすった。
帰り道は案の定雨になった。太宰府は今日も雨。
運転は兄が担当。なにしろ私は免許すら持っていないのだ。最初のうちは因果論について議論などしていたのだけど、そのうち猛烈に眠くなってきて、いつのまにか寝入ってしまった。
そして途中で兄に叩き起こされた。見ると、中くらいの川の両側が菜の花で埋まっている。「いちめんのななのはな」というわけにはいかないけど、たくさんのなのはな。曇った窓ガラス越しに見える、雨に煙る菜の花。ゆめみたい。起き抜けのぼんやりした頭の中で、ぼんやりとした風景が、ぼんやりとしたまま通り過ぎる。
翌日は、関門海峡を渡って山口県へ。ずっと雨。一度も車から降りなかった。
さて、旅行もいよいよ後半へ。「飛び梅」と菜の花はとりあえず見た。あとはヒバリの声だけだ。新幹線で一路東へ。京都で下車。その晩の宿泊地は彦根なんだけど、とつぜん京都は紫野のあたりへ行きたくなっちゃったんだから、しょーがない。地下鉄で北上、それからバスで大徳寺へ。なんかしらないけど、大徳寺周辺ってすごく好きなんだよね。まあこれは旅行者の感傷なのかもしれないけど、あの、竹林の中をずっと続く道とか、やっぱり、すごい好き。
で、もちろん大好きな道を往復して、それからあるお寺を見学。ここにも枯山水が。縁側に座って沈思黙考。目を開けると、わくわくするような青い空と、真綿みたいな白い雲。そのとき、体はものすごく疲れてたんだけど、心のそこから信じらんないほどわくわくしてきて、そうそう、旅行ってこーゆーのがなくっちゃ！ってすごく思ったんだよね。
夕方彦根に到着。宿に荷物を置いて、街中をぶらつく。夕食はうどん。あんまり食欲がなかったんだ。
で、翌日目が覚めると、部屋がぐるぐる回っていた。そう、ご存知の方はご存知の、脳貧血の症状だ！これを直すには、とりあえず寝るしかない。起きたのが７時。でも、８時になっても９時になってもよくならない。けど、１０時前にはなんとか起き上がれるようになった。でも調子は最悪。
でもでも、遅い朝ご飯を食べたらちょっと元気になっちゃって、さっそく出かける。多賀大社に行ってみようかと思う。その前に、駅前のデパート（だったかな？）でチョコバーを仕入れる。というのも、脳貧血の原因のひとつはカロリー不足ではないかと考えたからだ。それに、おばちゃまスパイはいつもハンドバッグにチョコバーを忍ばせているというし。じゃあ私は忍者か？
多賀大社は大きな神社でなんだか気後れしてしまった。参道の茶店に入ったらなんだか壁にべたべたと色紙が張ってあって、気後れしてしまった。でも、参道から外れた、駅のそばの和菓子やさんは、応対に出てきた奥さんが奥ゆかしくて、ナイス！「千代結び」というお菓子を買った。
お昼はうどん。
午後はやっぱりヒバリ上がり。なんとか旅行の最後の目的を果たさなきゃ。で、平野をずっと南下したあたりの山の上のお寺に行ってみようかと思う。というのも、その途中は田野の真ん中を何キロも歩かなきゃならなくって、その途中でならヒバリにでも出くわすだろうと考えたから。
で、目的地の駅までは結構時間がかかった。途中の駅で乗り換えなきゃならなくて、なんと乗り換えたのがかわいいレールバスというやつ。ほんとにバスみたいにレールの上をごとごと走っていく。
目的地の駅前には、タクシーが何台か止まっていた。でも、タクシーなんかに乗っちゃったら、ヒバリちゃんの声が聞けないよん。だから迷わずに歩く。
しばらくは道の両脇に家が立ち並んでいたいりして、庭木にひよどりがとまってこっちを見てたり、そんな感じのところを歩いていく。でもいつの間にやら道の両脇は田んぼが広がるばかり。それに、田んぼとはいっても、まだ代掻きを済ませたばかりという感じで、なんとなく殺伐としている。
そんな風景が広がっていて、空はなんだか青暗くて、春まだ浅く風は強くて冷たいし、なんで私はこんなとこ歩いてるんだろうか？という根源的問いを自らに投げかける。そんなの、ヒバリちゃんの声を聞きたいからに決まってるじゃん、って答えがすぐにかえってきて、シアワセな気分になってしまう。実際、幹線道路を離れて、田んぼの真ん中を突っ切る道路を歩いているとき、頭上高く、例の「ぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちくぴーちくぱーちく」というやつが聞こえてきたときは、もっと幸せな気分になれた。もう、最っ高！！そのまま走り出しちゃいたいくらいだったけど、そんなことをすれば目立つので止めた。で、ヒバリちゃんは強い風に逆らいながら必死に羽ばたいてて、とってもけなげに見えたけど、きっとそういう問題ではないのだ。
で、そのあと目的地のお寺を見て、再び歩いて駅へ。結構疲れた。帰りはヒバリちゃんには会わなかったし。ひよどりくんには会ったけど。
駅に戻ると高校生くらいの男女がタバコを吸ってた。話の内容からするときょうだいみたい。でも彼らは（レール）バスが来ても乗らなかった。駅にたむろしていただけみたい。で、私はチョコバーを食べた。
（レール）バスに乗って間もなく、日が暮れてきた。駅はとても寒かったので、暖房が心地好かった。
で、彦根に帰ってきたときにはあたりはだいぶ暗くなっていた。ホテルに帰る前に、目星を付けておいた和菓子屋さんで、桜餅と最中を買う。やっぱり、春といったら桜餅だもんね。
で、その晩はうどんよりもまともだと判断された、天ぷら定食を食べました。それから、寝る前にお茶を入れて桜餅を食べました。やっぱり、桜餅は春の味だなと納得して眠りにつきました。
翌朝もやっぱり脳貧血を起こしました。でも、前日よりは軽症でした。朝食を食べ、彦根城を見物に行きました。
こんなことを言ったら彦根の人に怒られるかもしれないけど、彦根城でいちばんよかったのは梅園でした。午前中のせいか、人も少なくて、顔を花のあいだに差入れて、視界をすべて梅の花で埋めつくす。なんてサイケデリック！
その日の午後、無事東京に帰りついた。二度も脳貧血起こしちゃったよと家族に言ったら、そりゃ、過労だよって言われたのだった。ろくに食べないのに動きすぎだよって。ちょっと、情けないかもしれない。まあ、いいか。楽しかったから。