目が覚めると世界が回転していた。脳貧血だ。しかも自宅じゃない。旅行先のホテル。前日歩き回りすぎたのが祟ったのかもしれない。あるいは食事をろくに取らなかったのが原因かもしれない。あるいは駅前の和菓子屋のおいしそうな桜餅を買わずに来たことのためかもしれなかった。
駅のトイレに入ると、床一面に吐瀉物が撒き散らされていた。便器の中には胃袋がひとつ残されていた。
レタスの葉を剥いたら緑色の芋虫が出てきた。その部分をちぎって、生ゴミとして捨てた。
頼んでいた本が宅急便で届いてきた。梱包を開けると頼んだ本と明細が入っていた。
駅に向かう途中のゴミ収集所でいつものようにカラスがゴミを漁っていた。そのすぐ側で大きなインコが道路に寝そべっていた。
細い指先が、ライチの固い皮に爪を立て、螺旋状に剥いていく。半透明の実が少しずつ露わになる。
風が強い。視界の隅を何かがかすめた。スーパーの袋だった。中に何か入っているようだったが、何であるかはわからなかった。
電車に乗ると座席がひとつだけ空いていた。そこに座って本を広げた。次の駅で両隣に座っていた人が揃って席を立ち、電車を降りた。新たに人が乗り込んできたが、空いた座席には誰も座ろうとしなかった。
酒を飲み過ぎた。どうやって帰り着いたのかまったく記憶にないのだが、気が付いたらベッドに座っていた。世界が回っているようだった。
次に気が付いたときにはベッドに倒れ込んでいて、吐きそうだった。水を飲んで、もう一度ベッドに倒れ込んだ。
次に気が付いたときは朝だった。
好きではないのだが、定食屋に入った。混雑していたので相席になった。向かいに座った人は、カツ丼をぐちゃぐちゃにかき混ぜ、口の中に流し込み、割り箸を折って丼の中に放り込み、勘定を払って出ていった。私もカツ丼を食べていたのだが、それを見ているうちにすっかり食欲が失せてしまった。
昔飼っていた小鳥が最近よく夢に出てくる。年老いたり体調を崩していたり。心配で、気が気じゃなくなるのだが、実際にはずっと以前に死んでいるのだ。一緒に心配してくれる母親と同じように。
洗濯用の洗剤を切らしていたので帰りにスーパーに寄って手に入れた。しかし、帰ってきてから台所用の洗剤も切らしていることを発見する。
少し寝坊した朝、キッチンにフランスパンを見つけて呆然とする――食べるのに時間が掛かるので。
横断歩道を渡っていると、向こうからやって来た人が、何か大声でしゃべっていた。一人だったが、携帯を持っていたかどうかまでは見なかった。
母親が子どもの頃住んでいた家のいちばん近くの駅は、小豆餅という名前だったそうだ。どういう由来があるのか、母親も知らなかった。
いつもより余計にお金を持っていたせいか、本やＣＤを買いすぎてしまう。本を買うのにあるところから送られてきた図書券を使った。図書券に書いてある人は誰なんだろう？使う前にもっとよく見ればよかったのだ。清少納言？それとも紫式部？
夏祭りに行った。神楽を見た。笛の音はいわゆるリフになっていて、太鼓は乾いた音でリズムをたたき出す。それに舞い手の身体の動きが組み合わさる。
驚くほどジャズやロックと似ている。
誕生日に、夢うつつで母親の声を聞いた。なんと言っていたのかは覚えていない。母親が話している夢を見たのではない。すっかり忘れていた声をはっきりと聞いた。
そういうことは以前にもあった。父親が自分の四十九日の法要の日の朝、私の名前を呼んで起こしたのだ。
細い指先が、やわらかい桃の皮膚に爪を立てるが、小さな断片になるばかりでちっともうまく剥けない。
夜、読書。突然ファックスが作動し、素晴らしい毛筆で「逝ってヨシ！」の文字が送られてきた。